第四百九話 敵は
「……⁉︎ な、何で……⁉︎」
私は、不意打ちで腹に一撃喰らったかのように目を見開き驚愕していた。
何で芦名は言ってくれないんだ……⁉︎
「……仕事の都合上、って奴だ。俺はお前らに伝えない。そもそも、今お前らがどういう立場に置かれてんのか、分かってるよな? いや……下手にペラペラ喋った俺も俺だが」
「どういう……立場……。……っ!」
芦名の返しに始めは困惑していたが、私は彼が言おうとしていることをその場で悟った。
その立場から見て仕舞えば、私の行動は馴れ馴れしいにも程がある。心では理解しきれなかったが……頭は、もうその意味を受け入れていた。
「つまり……私達は……敵……⁉︎」
私がそう言った瞬間、下から私を赤く照らす光が焼き尽くさんとばかりに溢れかえった。
言うまでもなくその光は、怒りに滾る私の仲間だった。
「サラマンダー……!」
「もう……これで分かったじゃない、サツキ。あいつは……敵以外の何者でもないわ。自分からそう言ったんだからなおの事よ」
サラマンダーは、静かに沸々と怒りを煮えたぎらせていた。
私と、彼女自身に言い聞かせるようにはっきりとした口調で一語一語低く語る。
「ま……待って、サラマンダー……!」
しかし、私はそれでも必死にサラマンダーにしがみつくように引き留めた。
サラマンダーも私の意思を払い除けて行くのは不本意なのか、それ以上は動かずに光だけを発して止まる。
……さっきだって芦名は私達を殺そうとしたかと思ったら、コロッと人格でも入れ替えたみたいに私達を助けようとしていた。正直、芦名の演技は一体どれが本物なのか区別がつかないほどに上手い。
もしかしたら、今だって私達を動かす事が目的にあると言うだけなのかもしれない。
そうなら、そんなふうに掌で踊らされるのは御免だ。上手く聞き出せば、芦名から……
「俺から何か、まだ聞き出せると思ってんのか?」
「えっ……⁉︎」
見抜かれ、一瞬目を丸くしてしまうが悟られないようにとすぐに無表情へと私は表情を変えた。
な……何でわかったんだ……⁉︎ もしかして、ここが芦名の精神世界だからとかそう言う理由なのか……⁉︎
「……おい、そんなに何か聞きたいって言うならよ。一つぐらいなら教えてやってもいいぜ」
「……ひと、つ?」
困惑の渦に巻き込まれる中、再び間髪入れず呼びかけてきた芦名の言葉に、私はきょとんとして緊張気味に返した。何か……教えてくれるのか?
「……一体、何を……」
「簡単な話だ。これから一体何が起きるかって話だよ」