第三十九話 脱出
「サンキューサンキュー!ほんじゃ、また近いうちに来るから!じゃあねー!」
私は『神速』でフレイの所まで向かいドリルへと乗り込む。
「逃がすかっ!」
エヴァーはいざ乗り込もうとした私に黒い球体を発射する。
バスケットボール程度の大きさの球体は一直線に私の方へ向かう。
「おっと、『蜘蛛糸』!」
即座に貼られた蜘蛛の壁を黒い球体は突き破る。
どうやら強度の問題ではないようだ……。
「うおぉっ!?」
私は咄嗟に上半身を後ろへ曲げてかわすと、後ろにあったドリルにぽっかりと穴が開いた。さながらマトリクスのようで、エヴァーは少し苛立ちを見せていた。
「サツキ!遊んでないで早く!」
遊んでいると思われて、私はフレイに怒られてしまう。
そそくさとドリルへ乗り込む。
私が乗り込むと直ぐにドリルは扉を封じる。
中は薄暗く、瓦礫の音が微かに聞こえる。
だが、ドリルには右左から銃弾らしき物で穴が開けられる音も聞こえる。
「フレイ!これ大丈夫!?穴開けられて逃げれませんでしたはシャレになんないよ!」
心配になりフレイの方を見ると、フレイは引き締まった表情で手元を動かしていた。
「心配ないです。『機械仕掛けの神は私のマナがある限り修復可能です。
サツキも一回見ましたよね?」
あー……そういえばそうか。白くなってもそこらへんは健在……まあ元は変わらないんだしそりゃそうか。
私がそんなことを考えていると、乗り込んでいた空洞が徐々に小さくなっていき身体にぴったりとくっつく。
「フレイ!?すごい密着してるんだけどこれ大丈夫なの!?」
「空気の道は確保しています!脱出用の形状変化ですよ!さあ、飛び立ちますよ!」
そのフレイの声とともに、身体にかかる重力が少し増す。
身体が上に上がっていっているのだ。聞こえてくる音は瓦礫が崩れる音から上側からのみ床を突き破る音が聞こえてきた。
何度か突き破る音が聞こえてきた後、上からの音はピタリと止んだ。
そして今度は風を切る音が聞こえ、私たちが空を飛んでいることを感じた。
それから10分後。
私が『神速』を使って20分かかった道のりをフレイは10分で帰ってきてしまった。
いや強……もうチートスキルじゃん。
実際マナティクスに会ったと言っていたフレイはその後飛躍的に戦力を増していった。
自在に変化するマナの凝縮体。それは盾にも武器にも乗り物にもなる。
実際に飛ぶ時は鳥を模した形状に変化し、ドリルを使って壁を突き破った。
まあ鳥の方は雑すぎてどちらかと言うと飛行機だったけど。
「……さて、というわけで手に入れた情報を発表していくよ」
私は会議室に集まって貰ったメンバーを前に厚紙を出す。
厚紙には『ドキドキ潜入捜査、IRA!結果発表』と書いてある。
「まずNo.1!王様はお互いのスキルを伝えていない〜!」
紙を一枚めくり、テロップを出す。
「伝えていない……?それってつまり他の王のスキルをそれぞれが知らないって事ですか?」
フレイは頬杖をつきながら私へ顔を向ける。
「そこもあるけど、ここから見える重要な点がある。それはお互いを信用してないってこと!」
私が人差し指を上に突き立てると、全員が不思議そうな顔をする。
「信用……?」
「そう、つまり疑いさえ持たせればいいのさ!」
私がそう言っていると、左側から給仕らしき人が茶を渡す。
いつもと違う人のようだが……。
私がそんなことを考えていると、突如カップに穴が開き音を立てて割れる。
「え……?」
驚きながら前を向くと、そこには人差し指を突き出して水鉄砲を発射したらしいウンディーネがいた。
「あんた……それ毒でしょ。なんの真似?というか、あんた誰よ」
そう言われ給仕の顔を見るとそこには只者ではない雰囲気が漂っていた。