第三百九十九話 不気味
「へ……? ちょ、何を……!」
困惑する合間に、気づくと芦名は後ろで固まるサラマンダーを差し置いて私の目の前へと歩み出して来ていた。抵抗する暇もなく一瞬で間合いを詰められ、手を取られたかと思った次には、芦名が私の手を握りしめる。
「うわっ……! ……って、あれ?」
驚いて咄嗟に声を上げたが、芦名はそれ以上何もしなかった。
ただ、手を握り締めているだけ……。それに何の意味が……?
頭が再び起こった訳の分からない状況にクエスチョンマークでいっぱいになる。
訝しんで、芦名の握る手を観続ける。がっしりと、かと言って強くも弱くも無く、痛みは感じない程度の握る強さで、私の手を握っている芦名の手を……。 あ!
その時、目の前で何が起こっているか、遂に私は理解した。
目を見開き、若干その状況に緊張しながらも、今一度確かめるために曇った芦名の眼をジッと見る。
「あの、芦名。これってもしかして……」
「サツキ! あんたアシナに触れてるじゃない! 私が触れなかったのに、どうしてあんただけなの⁉︎」
芦名のすぐ後ろから、サラマンダーが私の言いたかったことを全部言ってしまった。
……いや、この際別に良い。そう、私だけが触れているんだ。何故だか私だけが触れる……。
正直……何が起こっているのか全く分からない。私だけが触れることの意味も価値も、今のところ全く読み取れない。……だが、一つだけ、これらの謎を解く可能性を持っている物がある。
さっき、芦名は私の言葉を質問と確認した上で行動を起こした。そして、その行動は私の質問の答えとなっていた。……要は、今芦名は私が質問をすればそれに答えてくれるんだ。聞き出すしかないだろう。
だが、まずは……。
「その……とりえあず、その手離してくれるかな?」
私達がとっくに意味を理解したにもかかわらず、芦名は未だに右手を変わらぬ心地で握り続けていた。
何かまだ意味があるのかと一瞬考えていたが、そんな私の思考が始まると同時に芦名はその手を躊躇いもなく一瞬で解く。
「おっおう……ありがと……」
気の抜けた感謝の返事をして、私は芦名の瞳を改めてチラリと覗く。その目は、目蓋が閉じているわけでもないのに何処か眠たげで、意志が希薄に感じられた。まるで、魂が抜け落ちてしまったかのように感じられ、その瞳が不気味だった。
……ひとまず、最初の質問は……。
「君は、一体何なのかな?」
内心警戒していたが、できるだけ敵意を見せないように私は優しく語りかけるように聞いた。
サラマンダーは私がいきなり何を言い出すのかと、芦名を回り込んでこちらへと戻ってくる。だが会話を遮るつもりはないらしく黙って私のそばに立つだけだった。
芦名はやはり希薄に瞳をぶれさせている。
だが、私の質問に一瞬身体をピクリと動かしたかと思うと、すぐさま口を開く。
「俺は____」