第三百九十七話 あるはずの無い物
……無い? どこにも出口が?
……はは、無い無い。そんなことある訳がない。入り口があって出口がないなんてこと……。
頭の中で何度もその言葉を自分に言い聞かせる。そう、あるはずが無い。
そう思いつつ、私は茫然と遠くへ向けていた目をサラマンダーへと向け、安心させるように笑いかける。
「……方向を間違えちゃったんだよ、きっと。来た道だと思ってたんだけど、うっかりしてたなあ、ははは……」
「……」
安心させるつもりでかけた言葉だったが、どうにもサラマンダーは安心どころか恐怖を帯びつつあった。
……もしかしたら、本当に……いや、私まで不安になってどうするんだ! サラマンダーを励まして、さっさと出口を見つけないと……!
「よし! じゃあ『万物理解』で出口を探そう____」
「ねえよそんなもん。いくら探してもな」
サラマンダーをしっかりと抱え、飛び立とうとした瞬間、背後から声が聞こえてきた。
私達以外の声が聞こえてくる時点で十分奇妙な状況だが、それよりももっと、奇妙な出来事が起こっていた。
その出来事とは。
「芦……名……⁉︎」
後ろを振り向くと、そこに芦名がいた。
何も装備せずに生身ひとつで宙に直立するかの如く浮かび、こちらへ感情の読めない眼差しを送る。
何でここに……⁉︎ ここは芦名のマントの中なのに……!
それに、ウンディーネに何かおかしな行動をしたらすぐにでも内側から爆発してってお願いしたはず……!
いるはずの無い芦名の存在を問い質そうと私は口を開きかけたが、その姿を見た瞬間、私の懐からサラマンダーが飛び出して来た。その刀身は、ギラギラとした殺意を帯びて真紅の光を刻印からいまにも破裂しそうなほどに溢れ出させている。
「あんた、よくものうのうと私たちの前に出れたわね……! さっきは殺し損ねたけど、今この場で殺してや____」
「サラマンダー、少し待って」
今にも芦名に飛びかかってしまいそうなサラマンダーを、落ち着かせるように手で制する。
サラマンダーは私に感情を分散されたのか、赤い光を収まらせると困惑気味に沈黙する。
今は、芦名をすぐ倒すわけには行かない……。危険な場所とは言え、この『無限』の空間についての事を教えてくれた張本人だ。……そう、そのはずなんだけど……。
「芦名……今、出口が無い、って言ったの?」
静かに、私は彼の目を見て聞いた。
先程までのような元気は簡単には出せない。そう……私は出方を聞き損ねていた。あるだろう、とは思っていた……。でも、でももし芦名の今言ったことが本当だと言うのなら……。
芦名は、沈黙を続ける。そうして、放った言葉は……。
「……ああ、その通りだ」