第三百九十三話 発見
自分の中に入り込んだそれに、私は不意に疑問を抱いた。
この空気は一体何で作られているのだろう……と。
改めて考えてみれば、この空間には、絶対的な前提がある。それは、芦名が吸い込んだ物でここは作られていると言うことだ。あのマントは、地面に生える草も飲み込んでいた。恐らくそう言うものも分解されて宙に漂っている。
そして、先程の岩の塊のような物は分解されている途中と考えると、新たな仮説が立つ。
それは……分解された物が、均等にこの空間にばらまかれているのでは無いか、と言うことだ。
この一言だけでは当たり前のような事を言っているように聞こえるかも知れないけど……この言葉には、もっと重要な意味が隠されている。
芦名は、恐らくあらゆるものを取り込んでいる。マントの中に入った物は、全てここで分解されるんだ。
つまりそれは……木も、石も、鉄も、マナも、人の身体も。全てが目に見えないほどに分解され、あらゆる物が重力を失って漂っている。
それは……光ですらも、だ。
「遠くに見えるあの光は……分解される前にここに辿り着いた光が反射して私の目に写っているって言う事なんだ。しかも、大気中の不純物は外と比べたらこちらの方が遥かに多い……出る事もなければ、誰かに吸い込まれる事もないんだからね」
私は自分の考えた事を改めて把握し、結論として僅かにつぶやいた。
自分でも感じる……。これが、解決の糸口だ。この思考を辿っていけば……!
目をこらして私は遠くをジッと見つめた。その一つ一つ、共通性は無い。あれが単純な光である事は、間違いないようだ。
「……ガラスみたいに、光を曲げる物質もあれば、光を防いでしまうような物だってきっとある。私の目に見えている景色は……屈折した光なんだ! 曲がりに曲がって、まるで遥か遠くにあるように見えているんだ……!」
物体が見える原理は、物体に光が当たった時に反射した光が目に入り込むからだ。
しかし映り込むべき光がゆがんでしまえば、もちろん視界も歪む。私の視界は……気づかないうちに歪められていたんだ。
「だから……! あの光の群れの中に、きっとサラマンダーはいる……! 確かにここには居るけど、私が見つけてあげられなかったんだ……!」
私は更に目を凝らして、目蓋を決して閉じることなく光を見続けた。
私の視力は……決して強化されているわけじゃ無い。イレティナのように、ずば抜けた身体能力が備わっているわけでも無い。
でも、それでもだ。絶対に、サラマンダーは見つけなきゃいけない。私が落としてしまったばっかりに、サラマンダーが苦しむ羽目になってしまった。自己犠牲はせずとも……自分の尻拭いくらい、自分でやるべきだ!
私は、更に更に目を凝らし、目が飛び出るかと思うほど光の中を見続けた。目が痛くなっても、見続けた。
その時だった。
数多の白い光の中、たった一つ、一瞬、赤く煌く光があったのだ。
「……! サラマンダー!」