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第三十七話 私が王だ

「王様が、死んだ……!?」


 参謀は信じられない、というような顔をする。


 帰ってきた後、私達は敵を退けたと伝えた。

 その知らせは瞬く間に広がり、今や城中が大騒ぎだが、エルゲや参謀には気がかりな点があったのだ。


 ヘイハチはいきなり部屋を飛び出て、敵の方まで行ったらしい。車も使わずに走って。

 

「ああ、私達を庇って、ピンクの鎧を着た王様にね」

 

 私が言うと、参謀は膝を降り項垂れる。エルゲも歯を噛んで悔しげにしていた。


「くっ……!我が君が何故……!」


 今はこの場だけで伝わっていることだが、しばらくすれば城中、いや国中に伝わり混乱が巻き起こるだろう。

 

 ならばどうするべきか?謝礼程度は私だってする。

 私は地に膝をつく参謀を横に、ヘイハチが座っていた椅子に座る。


「今から、この国の王は私だ。国民にはヘイハチは病気で代理を立てたとでも伝えておいてくれ」


 私が高らかに宣言すると、エルゲは眉を潜め肩を震わせる。


「何を言う!貴様のような責任も何もあったもんじゃ無い人間が王だと!?馬鹿も休み休み言え!我が君はこの国のゆくす____」


 怒りをあらわに激昂するエルゲの唇に、私は人差し指を当て黙らせる。

 

「安心しなよ。別にこの国を乗っ取る気は無い。ただ、あと五人の王を倒すまでは指揮権を全部預かるって言うだけだ」


 エルゲは落ち着きを取り戻し、怒りで上がっていた肩を下げる。


「……失礼しました。では、全てあなたにお任せします。今日は部屋をお貸ししますのでそこでご就寝なさられてください」


 一応は納得してもらえた……かな。


「わかったよ。フレイ、ウンディーネ行くよー。……じゃ、そう言うことで」


 私は二人を引き連れ会議室を後にする。


「もし!」


 振り返ると、後ろを向いたままのエルゲが叫んでいた。


「……もし、貴方がこの国を守れないと分かったなら、命を賭けてでも貴方を王から引き摺り下ろします」


 ……。


「その意気で結構。また明日ね」

 

 私は一言言うと、その場を後に、城の長い廊下を歩いて行った。


「……その……サツキ」


 歩いている途中、フレイは私に何かを尋ねてきた。

 私はフレイの方へ顔を向け、聞く態勢を取る。


「なんでたまに性格が豹変するんですか?何と言うか……真剣な時って一変するような感じがするんです」


 あー……何と言うべきか……。

 昔、と言っても会社を首にされるまではキレッキレに働いていたからなあ……

 もしかしたらあの時の私が出ているのかも……。


「昔の私、かな……?」


「何で疑問形なんですか……?昔のサツキ、ですか。ずっとあんな感じだと疲れませんか?今のサツキの方が気楽に生きていて良いと思いますよ」


 疲れる……か。確かにあの頃は日々ストレスも溜まっていたりしていたかも……。


「ところで、あたし全く出番無かったんだけど。まだ私ここに来てからほぼ名前呼ばれてないわよ!?」


 サラマンダーが突如鞘をグルグル回しながら怒り始めた。


「い……いやまあ……別にサラマンダーは携帯しているわけだから名前呼ぶ必要もないからね?」


「ぷっ……惨めね」


 ウンディーネは腰に差さったサラマンダーを見下しながら嘲る。


「くぅぅ!見てなさい!いつか必ず新しい体を手に入れてあんたなんかギッタンギッタンにしてやるんだから!」


 サラマンダーはいつものように激怒していた。





「この世界の月は……いつでも綺麗だなぁ……」


 私は淡く白い月の光に照らされながら窓に手を置く。

 というか、あれは本当に月なのか?異世界は異世界だけども、それは別の星の可能性もある。

 

 実際にそう言う異世界転生ものって読んだことあるしなぁ……。

 けれども……あれは確かに月だ。要するにここは異世界の地球。……並行世界か?


 別に並行世界だからどうしたと言うわけでは無い。

 ただ、もしここが並行世界と言うならそれはどこかで未来が切り替わる何かがあったと言うことだ。


 それは一体、なんなんだ?モンスター、スキル、マナ……あまりにも差があり過ぎる。

 つまりそれは……過去に


「サツキ、どうしたんですか?」


 いきなりフレイに話しかけられて私は飛び上がった。

 用意されていた部屋は一部屋のみ。……まあ広いから文句は言わないけど。


「へっ!?い、いやぁ寝むれなくてさ!今日は満月だから月が綺麗だね!」


 私は”この世界”という単語が聞かれていなかったか心配になり必死に取り繕う。

 えーっと……何を考えていたんだっけ……?


「明日も色々有るんですから早く寝ないといけませんよ。……ところで、満月ってなんですか?

 月が綺麗な日はよく有りますが……」


 フレイはあくびをしながら私の隣に来た。


 満月って言う単語が知られていない……?……待てよ、船に乗っていた時にも満月だった。

 振り返ってみれば……この世界、ずっと月が満月じゃないか?

 それはつまり、存在が矛盾する。月は太陽の光を反射させているんだ。

 1日の時間が大体同じな辺り、太陽の周期も同じだろう。


 何かがおかしい?


「……フレイはさ、この世界の秘密とか知りたいって思わない?」


「秘密……?どう言うことですか?」


 私が月を見ながら訊くと、フレイは私に質問を仕返す。


「機械やらなんやらが開発されてしまったけれど、フェアラウスみたいに精霊……サラマンダーやウンディーネみたいな神秘が残っている。私はそれが生まれた理由が気になるんだ。だから次はそういう所に行ってみない?」


 私の目にはフレイの白い髪が映る。銀髪と言うには明るい色のその髪は、短いために小さく揺れる。


「……それも良いかもしれませんね。けど、その前に現状の問題を解決しないと意味が有りませんよ?」


「わかってるって、絶対残り五人しばいてやるさ!」


 私がそういうと、フレイは微笑む。


「……そうですね、皆で力を合わせましょう!」

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