第三百八十三話 説得
私の放った言葉に、ウンディーネは困惑した表情を浮かべていた。
眉を潜め、何を言っているのかわからないとでもいうように彼女はこちらを怪しんで見る。
「言葉の通りだよ。私にも出来ないことはある。だから、皆にはその役割を担ってほしい」
「……なら言って見なさいよ。あなたに何が出来ないって言うの? あなたに出来ないことなんて……一つも無いでしょ?」
「いや、有る」
真っ向から否定する私に、ウンディーネは再び沈黙した。
有る、有るとも。私には出来なくて、皆には出来る事が。
数秒の沈黙の後、私は閉じた口を開く。次の瞬間、私が放った言葉は。
「私は……人を守る事が出来ないんだ」
風の音すら止み、静けさが辺りを包み込む。
その静けさの理由は、風景によるものだけでは無く、皆の沈黙が原因でもあった。ウンディーネは、私の放った言葉に唖然として口を開いていた。
「……何を、言っているの? あなたが人を守れない? そんなわけ無いじゃない……あなたは毎回私達を……」
「守っている? それは違うよ。私が毎回しているのは埋め合わせ、私は守れない人間なんだ」
思い当たる節があったのか、ウンディーネはそこで沈黙する。
私はどれだけ頑張ってもどうしても見落としてしまう。常に勝利を一人で狙っていたから、そう言うものが身につかなかった。
「でも……皆は違う。お互いに、カバーしあって、守る事ができるんだ。だから皆には、皆の事を……そして、私の事を守って欲しい」
「……あなたも? あなたをどうやって守るって言うの?」
「私の『神速』だけじゃ、サラマンダーを助けるには至らない。だから、フレイとイレティナには私が入る時に加速させて欲しい。早く帰れると私の痛みも減るからね」
私がフレイとイレティナに目を向けると、緊張した面持ちで二人はうなずいた。
イレティナの方は、若干目が輝いているようにも見えた。だが、ウンディーネは……。
「私は……何も出来ないわ。加速する力なんて無いし、液体の身体は今全く役に立たない。力だって、この中では一番弱いのよ……」
彼女は目を伏せて、唇を噛んでいた。
自分には何も無いと、苛立ちすら感じているような雰囲気だったが。
「いや……ウンディーネ、君も、必要なんだよ。今だからこそ必要なんだ。君は……重要な保険だ」
「……保険?」
ウンディーネは、怪訝な顔をして私の方へ顔をあげる。
どう言うこととその口から出てくる前に、私はその内容を話した。事細かに、どう言った場合に必要なのか、その重要性を伝えた。
「……分かってもらえた?」
私がそう聞くと、ウンディーネは、曇った顔をしていたが。
「……ええ、分かったわ」
そう言って了承してくれた。
……良かった。これで、最善の行動に移せる。
「ウンディーネ……本当にありがとう……!」
微笑みを浮かべ、私が彼女に感謝をする最中。
「……」
後ろでは、芦名が不満げな顔をしていた。