第三百八十話 質問
自信に満ち溢れた私を前に、芦名は頷きもせずに少しジッと見ると、顔を伏せ。
「……分かった。じゃあ、何から質問すんだ?」
……よし、芦名は質問を受け入れてくれたみたいだ。
残る時間は先ほどの経過分も合わせて後六分半。何を聞くかも、どれくらいの速さで処理していくかも大切だ。
だからこそ、すでに聞く事はある程度絞っている。
私は一息吸い、目下に座る芦名を見た。そうして、先ほどの分も合わせて三番目になる口から出た質問は。
「じゃあ……とりあえず三つ目の質問。『無限』のなかは一体どうなっているの?」
私が彼のマントの内側を指差すと、草も残っていない地面からわずかな土塊を吸い込む『無限』の姿があった。
芦名は躊躇いも見せずに、すぐに口を開く。
「一言で言えば果ての無い、宇宙に似た空間だ。『無限』の中を漂う物質はそれを構成する物を外側から徐々に剥ぎ取られていく。その物質が無数に漂っているから、星のように見えるってわけだ」
質問した事に加え、質問していないものまで関連づけて芦名は饒舌に語る。
一応有用な内容だし構わないけど……芦名は、もしかして情報を伝えるのが好きなのかな? ……いや、まあどっちでもいいか。
頭の中に浮かんだ疑問を横に置き、私は絶え間なく、芦名の答えに代わる代わる質問をぶつけ始めた。
「サラマンダーの居場所は?」
「わからん。だがお前の『万物理解』と『神速』ならすぐに見つけ出せるだろ」
「サラマンダーは今どれくらい身体を剥ぎ取られているの?」
「刀ってのは吸い込んだことが少ないから分からんが……少なとも、ガワから取られて行っているのは確かだ。大方、剣の切っ先あたりが削れ始めているんじゃねえのか?」
「中に入るとどうなる?」
「生物の場合は、さっきも言ったが外側から剥ぎ取られる。皮膚が全部剥がされるのは入って数秒足らずだと思うぞ」
芦名は次々と出される私の質問をものともせず、詰まることなく返していっていた。
ここまで予想していたみたいに返答できるのは驚きだったけど……結果としては、色々聞き出せて十分な情報が集まった。
サラマンダーも助けられるし、安全に、心配なくこれなら帰ってこられる……。
「……あ、そうだ」
安心して胸をなで下ろすような気持ちだったが、私は自分が残していた一つの質問を思い出した。
さほど重要と言うわけでも無いが、聞くに越したことはない質問だ。まだ時間はあると思うけど、これだけ最後に聞いて行く事にしよう。
「……じゃあ、芦名。最後の質問だ」
「おう……なんだ」
芦名も顔を上げ、私の顔を見る。
その顔は、無害で、疲れているような印象を受けたが……どこか、不安な雰囲気を感じた。
「……」
「どうした?」
息を飲んで固まっていた事に気づき、私はハッとして意識を取り戻した。
いけない……固まっている暇なんてないのに。とにかく、これだけ聞いて、行かなきゃ……!
改めて私は息を吸い、芦名に向かって、どこか強い口調で口を開いた。
「……入ったら、どうやって出るの?」