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第三十六話 戦場

 当日。

 私とフレイは『機械仕掛けの(デウス・エクス)(・マキナ)』で翼を作り、敵がたむろする遥か上空にいた。


「サツキ、その……やっぱりこの作戦は……」


 私をおぶっているフレイは、悩ましげに私へ振り返る。

 大勢を殺すことには慣れていないか……。ここは私が言ってあげないと。


 そう思い、私が口を開こうとしたとき。


「いえ、忘れてください。一度は決めたことですから、逃げたりはしませんよ」


 フレイは首を戻し、柔らかな口調で話した。

 ……成長、したのかな?タケルと闘って以来、彼女は自分を責めることが少なくなった気がする。

 

 それがマナティクスとやらのおかげかは知らないけど……今のフレイは一味も二味も違う。


「……よし、じゃあ作戦開始だ!フレイ、準備を」


 私の合図とともに、白い翼から水滴のように小さい粒が滴り落ちる。

 それは徐々に落ちるスピードを早めていくが、最後には一人の兵士のポケットにすっぽりと落ちた。




『え……どういう事ですか?』


『敵軍の中に機械仕掛けの(デウス・エクス)(・マキナ)を忍び込ませるんだよ。それで敵が領地に入り込む瞬間に……!』


『エグいわね、それ。まあ軍を一回潰すって言うんならそれでも良いと思うけど』



 そして、今まさに敵軍の先端が領地に侵攻する。砂糖を運ぶアリの列のように。整った隊列を崩さずに。


「今だ!フレイ!」



 俺はただの農民だった。毎日畑の世話をして居ただけだった。

 収入は微々たる物だ。だが、そんな時兵士になれば金がたくさん貰えると聞いて俺は兵士になった。


 戦績は目覚しく、俺は自国の大佐にまで登り詰めた。

 

 今回の戦争も勝ったも同然の物の筈だった。なのに、今俺が目にしているものは違う。

 いきなり、目の前にいた兵士が白く光出し、気付けば俺の腹は大きな水晶のような物に貫かれていた。


「え……?あ……」


 まるで状況が理解できない。何が起きたんだ?腹は背骨ごと貫かれ串刺しになって居た。

 臓物が少しはみ出ているのが見える。


「あ……足が……!」


「僕の……僕の身体が……!」


 声がする方を見ると、腰から下が無くなっている者や、頭を貫かれて即死した者もいた。

 ああ、これ、夢じゃ無いのか……


 腕がじんわりと汗をかく。腹の辺りが血で熱いのを感じる。

 くそ……くそ……



 発動した瞬間、あのきっちり整って居た隊列は一瞬にして崩れた。

 放射状に、『機械仕掛けの(デウス・エクス)(・マキナ)』を広がらせ、幾つものトゲとして貫く。

 それが今回の作戦だった。


 その姿はまるで地面に生えた水晶のよう。本来の白は貫いた数々の人間の血で赤く染まっている。

 

「……まるでローズクォーツみたいだ」


 私は微かに聞こえる呻き声を耳にしながら呟く。


「サツキ、人が死んでいるんです。例え敵でもそれを美しい物に例えるのは間違っていますよ」


 フレイはこちらを向かずに下へと降りていく。


「……」

 

 確かに今のは良くなかったな。……さて、じゃあ探るか。


 フレイは地上に降りると、翼をしまう。だが、まだ水晶に用事がある。棘はまだ抜けない。

 私は水晶に触れ、死者を確認する。


 水晶もフレイのマナ。故に『万物理解』の対象。水晶越しにリヒテンシュタインの姿を探る。


 ……あった。腹部を貫かれて、死亡ね……。

 

「フレイ、死んでたよ。作戦は成功だ」


 私の言葉にフレイは頷く。後は帰るだけ……ん?なんだ……何かが近づいてくるような……。

 そう感じた次の瞬間、フレイの目の前に女が飛び込んできた。

 女は剣を握りしめ、フレイに斬りかかろうとする。


 生き残りが……!?っ、速すぎる!防御まで入れない……!

 どうする……?このままじゃフレイが……。


 その時、今までの仲間との助け合った記憶が僅かに私の頭の中に浮かんだ。

 ……ふっ、何を迷っているんだ私は。


 すぐさま私はフレイの前に立つ。


 防げん無いんなら、守ってやるのが仲間でしょ。


 体を広げ、出来るだけフレイに当たらないようにする。

 そしてその女は握っていた剣を振り下ろした。


「ぐあぁっ!」


 その呻き声を上げたのは私では無かった。

 目の前には、ヘイハチが私を庇い倒れ伏している姿があった。


「な……なんで……!?」


「くく……拙者はもとより死ぬ覚悟。己が命をうまく扱う時が来ればこうするつもりでしたぞ……」


「……」


 私は石をヘイハチの上に置き、ゆっくりと立ち上がる。


 ……奴の名前は東條院霞(とうじょういんかすみ)、スキルは『神速』。神の如き速さで空をも駆ける……か。


「ピンク色の鎧にそのファンタジーもりもりの剣……髪はそれ染めてるよね?赤色なんて気取っちゃってさ」


 私は立っているその女に向かって静かに挑発をする。


「……あんた、それ私が誰だか知ってて言ってんの?そんな色気も何も無い服……ダサいわね。それでヘイハチに守られるなんて……」


 挑発を仕返したつもりなのか、その女は私を馬鹿にしたように言う。


「一国の王、でしょ?そこまで言うんなら私を倒してみたら?それとも、私を知らないとか?」


 ヘイハチが知っていたのなら、この女だって知っている筈だが。


「誰よあんた。そこまで知っているんなら、よっぽど死にたいってことね!」


 ……驚いたな。まさか本当に知らないのか?ああでも、何か言うんなら……こうだな。

 女は私の脳天を目掛けて目にも留まらぬ速さで斬りかかる。

 

 しかし、そこには鋼鉄に『変化』した私の手が剣を止めている姿があった。


「死ぬのはあんただよ」


 私はそのまま頭を目掛けて回し蹴りをする。

 女の頭は回転をしながら飛んでいった。


 下を見ると、ヘイハチはとっくに光になっていた。

 後は……これ死んでるけど大丈夫かな?


 ダメ元で石をかざすと、女の体は光に包まれて消えていった。

 

「行けた……」


「サツキ……その……大丈夫ですか?」


 フレイは私に恐る恐る聞く。


「え?ああ、大丈夫大丈夫!別によく分からなかったけど、王一人倒せたってことで!」


 私を見るフレイの目が若干引いているようにも感じたが、その日はそのまま城へ戻っていった。

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