第三百七十五話 拒否
「……!」
どう言うことだ……? サラマンダーが助かる……のか? いや、それ以前にだ。芦名は、私達を助けようとしているのか……?
「さあ、早くしろ。時間には限りがある」
沈黙をする私達を前に、芦名は起伏のない言葉使いで急かす。
頭の中の整理がつかないままその言葉に突き動かされ、気づかぬ間に私は生唾を飲み込んでいた。
……もしここで迷っていたら、サラマンダーを失ってしまうかもしれない……考えるのは後にして、今は芦名の言うことを聞くべき……なのかも……。
「……わかった、芦名。君の言う通りに____」
「サツキ、少し待ってください」
私が芦名に返事をしようとしたその時、フレイが割って入ってきた。
それを見てフレイへと目を向ける芦名に対し、フレイは怖気付く様子もなく睨み付ける。
「まだ決断には早すぎます。アシナ、私は貴方が何度もその力を使うのを見ています。その中に腕を吸い込まれた評議会の男は腕から先を失いました。サツキは肘を抉られました。その中に吸い込まれたら最後、消滅すると考えた方が辻褄が合うのではないのですか?」
「お前がそう考えるのはおかしくない。実際、最終的にはこの『無限』の材料になっちまうわけだからな。
だがな、さっきも言ったが瞬時に消滅する訳じゃないんだ。正確には……引きちぎられたと言うべきか。『無限』の中に一度入れば俺が許可しない限り出すことは出来ないからな。……どうだ、納得してくれたか?」
「いいえ、出来ません。だったらサラマンダーをこの場に連れ戻せば良いだけです。戻さないのは、とっくに解体してしまったから……違いますか?」
フレイは予想だにしない食い下がりを見せ、座る芦名を威圧するように見下ろした。
今まで芦名と戦ってきていた中で彼女は芦名を信じるような素振りをいくつも見せていたが、今は、この場の誰よりも芦名に対して、疑いと怒りを抱えていた。
「フレイ……良いじゃないか。今は一旦サラマンダーが助かるかもしれないんだから、一刻も早く行かないと____」
「駄目です!」
フレイの叫び声に、空気が震える。
宥めようとしていた最中に身体中を駆け巡るような声を浴びせられ、私は思わず身体を竦ませて身動きを止めてしまっていた。
フレイは、悩ましげにため息を吐き、俯くと。
「……駄目、なんです……。サラマンダーは、私が殺してしまったも同然なんです。私が、一瞬の気の迷いに絆されて、あんな事に……。ですから、これ以上無駄に命を落とさせるかもしれない行為はどうしても避けたいんです。また私が、無闇に信用してしまって誰かを失わないように……」