第三百七十一話 一撃
剣が四方八方から降り注ぐ中、私と芦名は対峙していた。
もっとも、私が直立なのに対し芦名はずっと短剣を避け続けているわけだが。
私が彼のことを見つめていながら、芦名自身は全くこちらを見る余裕などなさそうだった。
マントも、肩の肩甲骨辺りまで裂けている……恐らくあれがこの空間で保てる限界の広さなのだろう。伸ばしよう物なら即座に刈り取られる。
だったら、やはり勝機は、今だ。
「っ⁉︎」
死に物狂いで短剣を目で追い、躱し続けていた芦名だったが、私の方を見た瞬間、一瞬硬直してしまう。
そこには、絶大な力が渦巻いていた。私がサラマンダーを握る柄と、私の身体には何の変哲もない。
サラマンダーの剣心が一瞬青白く光ったかのように思えた。次の瞬間、刀身が燃え上がるような赤い光に包み込まれる。それらが混ざり合い、膨れ上がる。オーラとも呼べる何かが、サラマンダーを包み、その姿はまるで何十倍もの巨大な刀のようで有った。
それを私は天へと掲げ、構えていた。
「っ……!」
それの危険さを察知したのか、芦名は目の前に立つ私を飲み込もうと数コンマの内にマントを二枚貝の如く私の横に広げた。
しかし、広げた瞬間芦名のマントは掻き消える。正確には、切れ端すら分からなくなるほどに短剣の群れによって粉微塵にされたのだ。
「無駄だよ、芦名。……さっきはよくも、私の仲間を飲み込もうとしてくれたね。一人ずつの分返すなんて焦ったい。私の怒りも、フレイも、サラマンダーもウンディーネもイレティナも! 皆の分まとめて突き返してやるよ!」
その言葉と同時に、ついに芦名の両足に短剣が突き刺さる。
地面に打ち付けられた芦名のつま先は、そこから一歩たりとももう動けないことを示していた。
私の上空には、今か今かと待ちわびるばかりに絶大な力の渦が巻き起こっていた。
サラマンダーを介した結果、その力の大きさは……私一人の時の、何十倍もの大きさに膨れ上がっている。
「喰らえ……芦名!」
その言葉と同時に、私は自分自身にも『神速』をかける。
後ろからサラマンダーの叫びが聞こえてきた。この一撃に、サラマンダーも全てをこめている。
「う、お、おおおぉぉ! 『精霊剣技・焉焔燄㷔・極峯彩一閃』!」
そう叫び、刀を振り下ろした瞬間、全てがゆっくりと動いているように見えた。
私の振り下ろす腕が、サラマンダーのオーラを更に増させて行く。彼女の切っ先に虹色の光が収縮し、芦名へと向かって行っていた。
彼女が芦名の肩へと斬りかかり、一気に彼の肩から血が吹き出る。
芦名は血反吐を吐いていた。しばらくもしない内にエネルギーが彼の身体を駆け巡り、内部から破壊されて行く事は彼自身分かっていたはずだった。
しかし、その時、彼は。
「……」
血塗れになったその口元を、微かに歪ませ笑っていた。