第三百六十六話 神級の速さ
「フレイ、イレティナ! 一旦下がって!」
私の言葉にいち早く気づき、フレイは最後の短剣を撃ち切るとこちらへと降り立つ。
イレティナもフレイの動きに合わせて姿勢を低くし、芦名へ足払いを喰らわせると後ろへ飛び退いた。
「二人とも、怪我は?」
「無いです」
「私も!」
二人の余力のある返事に頷き、私は改めて芦名の方へ目を向けた。
さっきの足払いが効いて、芦名は若干震えながら身体を起こす。
……やっぱり……芦名自身は一切強化されていないんだ。
『無限』はあくまで物質を作るスキル……それも、あのマントからしか出せない制約付き。
だから私のように自身の強化に転用する事は出来ない。彼の弱点は、そこにある。
先程大幅にマナを消費していたであろうフレイに、私は『変化』でマナを充填し直した。
準備は万端、皆は私の一言一言をしっかりと遂行してくれる。……行ける!
「皆、今から私の指示を一言一句聞き逃さないで。ここで……芦名をとる!」
全員が私の言葉に、強く頷く。
芦名はやっと立ったところらしく、直立とまでは行かずとも地に足をつけてこちらを睨み据えていた。
「イレティナ、ウンディーネ。芦名のマントの裏に回り込むのを意識して! 攻撃の手は、芦名が死ぬまで緩めずに!」
その言葉を話す間に、赤い魔法陣が浮かび上がっていた。
芦名はどこに転移するのかを既に予測済みだったのか、イレティナの現れる背後へと振り返り様にマントを大きく振る。
しかし、それも既にこちらが見越していた。
イレティナは芦名よりも少し遠くに離れた場所へと転移されていたのだ。
「ちっ……!」
鬱陶しげに舌打ちをすると、芦名は次々とマントをイレティナのいる場所へと突き刺そうとする。
しかし、マントが辿り着くよりも先にイレティナは次の場所へと瞬間的に移動し、イナヅマを描くように自分の身体を移して行っていたために何一つイレティナへ攻撃を喰らわせる事は出来ない。
そして、芦名の懐まで潜り込んだ時だった。
芦名は大きくマントを広げ、イレティナを囲おうとする。フレイや私に何度もやっていた、不意をつける一撃必殺の凶悪な技だ。
……しかし。
「やあっ!」
次の瞬間、イレティナは芦名の首へと一突きの蹴りを飛ばしていた。
彼女をマントが飲み込む寸前に、再び素早い動きで横へと移動し攻撃を免れていたのだ。
イレティナの素早さは、私の『神速』レベルだ。その上それを補う動体視力も備わっている。
生身の人間にどうしてこんな力が宿っているのか不思議だが、どちらにせよ……。
「が、はっ……!」
まずは、一撃だ。