第三百六十二話 増援
「なっ!」
渦は一直線に山頂へと向かって行き、木々の上を駆け抜けていく。
一瞬で頂上まで到達した渦は、内包する雷を一気に放出し、大量の光と電気を轟かせる。
渦が直撃した頂上に有ったのは。
「がっ……ぁ……! くぅっ……」
一身にその攻撃を受け、蹲って倒れる私の姿だった。
速すぎて完全に防げなかった……か、体中痺れて動かしづらい……。
苦しむ私の前に落ち着いて芦名は現れると、下にいる私へ目を向ける。
「どうしちまったんだ? さっきまでと比べて余裕が無さそうだが……ああ、お前にとっちゃこれ以上無いってくらいまずい状況だな」
……悔しいが、本当に芦名の言う通りだ。とんでもなく最悪な状況になってしまった。
何故なら、ここには。
「サツキ……⁉︎ と言うか、ここは……山の頂上ですか⁉︎ それに、芦名まで……とにかく状況を説明してください!」
後ろから、困惑するフレイの声が聞こえてくる。きっとサラマンダーやウンディーネ、イレティナも困惑しているのだろう。
ここには……皆を隠しておいたんだ。
「どうして……どうして分かったんだ、芦名……。私は一瞬頂上の方へ目を向けてしまった気がするんだ。それが……原因なのか……?」
「いいや、違う。予想は粗方ついていた。後ひとつ欲しかったのはお前の油断、完全な防御をしきれない所に僅かでも『無限』の欠片を触れさせればいくら壁を分厚くしようが簡単に破れるからな」
粗方……ついていた……⁉︎ あそこで言葉を終わらせたのは私を安心させて隙を突くためだったのか……!
やられた……どうすればいい……皆を守るためには、どう私は動けば良いんだ……⁉︎
「サツキ……! 芦名、サツキを殺させはしませんよ!」
私の身体に触れ心配していたフレイが、芦名に立ち塞がった。
「フレイ……敵う相手じゃ無い……! ここからなら『仮神翼』で脱出できる、皆を乗せて逃げるんだ……!」
しかし、それでもフレイは私を庇う事を止めなかった。
「……守り、守られるって訳か……サツキ、お前に前言った事が有ったな、まずは近くを見ろって。お前よりも随分こいつは熱心にやっているよ。だが……俺の目的はこっちなんでな」
次の瞬間、芦名のマントが一気に広がり、フレイを陰に覆う。
フレイ、逃げろ……! そう言おうとしたが、あまりにもそのスピードは速かった。
もうその時、フレイの半分以上が覆われていたのだ。身動きが取れず、その光景を見ることしかできなかったその時。
「イレティナ、今です!」
マントの内側から、フレイの闘志に満ちた叫び声が聞こえてきた。
マントが数ミリ動くよりも先にイレティナがどこからともなく現れ、迅雷の如く芦名の足元を駆けてゆく。
芦名の脚を掴んだかと思うと、後ろ側からイレティナは芦名の脚を素早く持ち上げ、ひっくり返していた。
驚いたような芦名の表情が一瞬見えたかと思った次の瞬間、広がっていたマントはすっかり消え芦名は後ろへと倒れ込んでいた。
その一瞬で起きた出来事に、私がポカンと口を開けてみていると。
「何グズグスしてんのよ! さっさと自分の体直しなさい!」
後ろからの叱りつけるような口調に急かされ、『変化』を使い痺れを無くす。
その声の主人を見ようと、治った身体を振り向かせると。
「サツキ……いろいろ、言いたい事があるわ」
サラマンダーが、そこにいた。