第三百六十話 脅し
「……」
なんだ……? 何で、身体が動かない……! 怖いのか、私……⁉︎
あんな笑み、今まで何度だって見て来たじゃないか……! その度に、倒して来たのに……どうして今に限って……
「……一人は心細いか?」
「……は? いきなり、何を……」
声が震えながらでは有ったが芦名へと聞き返すと、芦名は笑みを止め元の無表情に戻る。
「さっきも言ったが……お前はさっきから弱くなる一方だ。力任せにスキルを使って押しつぶそうとしているし、工夫が無え。それに簡単に俺に気圧されちまってる……まるで野犬に棒振り回してるガキみてえだな」
私が気圧されている……? そんなはずは、無い……。だって、私の力は芦名よりも上のはずだ……。
そんな相手に、どうして気圧される必要がある……。
「……君の言うその棒ってのは、少し間違っているんじゃ無いかな。私が持っているのは……数多の武器だ」
その言葉と同時に、私の背面から次々と輝きが溢れ出す。
それぞれが違う色を示し、遂には、そこには百以上にも登る数が燦然と輝いていた。
そしてその間も無く、光が一点へと集中する。
次の瞬間、そこで見た物は、極彩色の光を放つ巨大な光の玉だった。玉は今にも暴発しそうなほどにその輪郭から力を迸らせ、その一つ一つの漏れは現れる度に空間に波動をもたらす。
「以前たくさんの転生者が一致団結してこれを作ったことがあってね……少し真似てみたんだ……」
「……」
「でも、出来や出力はまるで違う。地面に当たればこの島が崩れるし、上に投げればこの島の地表に極大の純粋なマナのエネルギーが降り注いで、ここは更地だ。この威力の絶大さ、わかるだ____」
「ごちゃごちゃうるせえな」
私の言葉を遮り、芦名が苛立った口調でそう吐き捨てる。
息が詰まり、芦名を見つめていると、芦名は顔を上に上げ、見下すようにしてこちらをみる。
その眼が、こちらへ殺意を向け睨んでいた。
「さっさと来いよ、待ちくたびれてんだ」
「っ……! ああ、分かったよ、そんなに早く消え去りたいって言うんなら消え去ってしまえ!」
そう叫び、私は振りかぶって玉を投げた。
『神速』も相まり、玉は咆哮を上げながら空を切り裂いていく。超質量のエネルギーは、空気すらも消しとばし突き進んでいく。
芦名がそれに当たるのを目にする一瞬前の時、消失した空気の間を戻そうと一気に空気が空間へと注ぎ落とされ、目の前が風圧で見えなくなった。
次に目を開けた時、そこには。
「っ……、嘘、だろ……?」
未だ、何の変化もなくそこに立つ芦名がいた。
「……やっぱり、お前は弱くなっている。いくら武器持ってたってよ、狼に吠えられて怖がってんじゃ訳ねえよなぁ」