第三百五十八話 焦燥とシェルター
「……分かったわ」
痛がるイレティナを見ていられず応急処置をしようとした時、不意に声が近くに聞こえて来た。
「……? サラマンダー、何が分かったんですか?」
私の質問には答えず、サラマンダーは私達の壊そうとしていた壁へと近づく。
そして、その刀身をピトリと静かに当てると。
「この空間は、サツキが作ったものよ」
驚く様も見せずに、はっきりとサラマンダーは私達を順々に見ながらそう言った。
「え……⁉︎ ど、どうしてサツキが作ったってわかるんですか……⁉︎ アシナの『無限』だって強固な壁を作るほどの力を持っているんですから、彼の可能性だって……!」
「じゃあ、どうして私達はまだ無事なのかしら?」
「……! それ、は……」
サラマンダーの一言で、大いに反論しようとしていた私の心は言葉が止まると共に萎んでしまう。
その私の姿を見てか、サラマンダーはため息を吐き。
「もしこれを仕掛けたのがアシナなら、何かしらの攻撃手段が取られているはずよ。あんたは信じたく無いと思うけど……あいつは、確実に私たちを殺そうとしていたから」
「……私も、そう思うわ。絶対に壊れない壁って事は、裏を返せば外側からの攻撃にも絶対に壊れない……。
私達を閉じ込める牢屋というよりも、ここの意味合いはシェルターに近いんじゃ無いかしら……」
サラマンダーの意見に、ウンディーネも若干目を伏せながら同意する。
二人の言葉に、私はしばらくの間沈黙していた。
……きっと、サラマンダーの言っていることは正しい。アシナの本心は分からないが、少なくとも今は確実に私達へ敵意を持っている。ここの壁が決して壊れないことも、外が見えないことも、それくらいに厳重に作られているからなんだと思う。簡素ぶりからして、時間が本当に足りずに、よほど急ごしらえで作ったというのも伺える。
……でも……でも……私達が、ここにいると言うことは、サツキはきっと一人で戦っていると言うことになる。
それを、意図的にサツキが狙ったのだとしたら……。
「サツキは……私達が……足手まとい何ですか?」
その言葉を自分で口にした瞬間、引き裂かれるような苦しい感覚が心臓から身体中へ広がっていく。
思いがけずに汗が垂れ、私は集中もままならず壁を無意味にじっと見つめてしまう。
「そ……そんなことないよ! きっと、サツキさんはどうしても一人じゃなきゃいけない理由が____」
「違うわ。あいつは、自分をまた犠牲にしようとしてんのよ」
私を励まそうとするイレティナの言葉を突き破り、サラマンダーがいつもよりも数段冷たい声で私へとそう告げた。