第三百五十六話 葛藤
フレイはサラマンダーの問いに、驚きを隠せずにその場で固まってしまった。
その後またサラマンダーに答えようと口を開いたが、最初の言葉が出るよりも先に彼女は息をつまらせ、何か後ろめたいものでもあるかのように目を伏せて黙る。
「……」
「……サツキを除いたら、私達の中で誰よりも強いのは貴方よ。でも、それでもサツキが本気を出したら貴方だって敵わないの。……分かっているわよね?」
フレイへ詰め寄るサラマンダーに、彼女は目を合わせられないまま下を向いて話すが。
「分かっては……いますが……それでも……」
「現実、私達はできないのよ。出来もしない事を語るのは妄想と何ら変わりないわ。違う?」
突き放すようなサラマンダーの言葉にフレイは顔を上げ、心配するようにサラマンダーを見ると。
「サラマンダー……? どうしたんですか? 何か有ったんですか……?」
今度はフレイがサラマンダーの方へと近づき顔も無い彼女の刀身を見上げる。
近づくフレイと同じくらいの距離と同じ程に後ろへと移動し、サラマンダーは若干圧されながらも彼女と一定の距離を保とうとする。
「ちょ、何よ……あんまり近づかないで……」
フレイが近づきサラマンダーが距離を取り、二人はウンディーネやイレティナと同じくらいの距離まで下がっていた。
しかし、その時。
「もう、待つのも飽きた」
その一声と共に、私達の身体が一斉に影へと包まれる。
空や風景が無機質な星々へと塗り替えられ、何もかもが青黒くなり、最後の風景の一切れまでもがその星々へと覆いかぶさられようとした瞬間。
「『時空転移』!」
私とフレイ達の足元それぞれに模様が円状に浮かび上がり、影の差す中を下から照らす。
次の瞬間には、風景はすっかり元に戻り、私の目の前にはマントを繭のごとく広げ何かを呑み込もうとしていた芦名の姿があった。
手応えが無いことを勘づいたのか一瞬奇妙な表情をすると、横目で私を睨みつけて姿勢をこちらへと向ける。
「他の奴らはどうした」
「安全なところに隠れてもらっている。酷いじゃないか、不意打ちなんて……」
「うだうだ話すてめえらが悪いんだろ。しかし……まあ、結果的に好都合だな。お前と俺のサシなら、勝つ確率も上がる」
「ハハ……生憎だけど私もそうなんだ。これでもう庇うものもない。気兼ねなく戦えるよ」
私が不敵に笑いながら戦闘態勢に入る中、芦名はじっとこちらを見ると、奥底の見えない目をして。
「……どうかな」