第三百五十四話 死んでも良い
その言葉に私は確信に似たものを覚え、目を見開いた。
「それって……!」
「と、とにかく! 私達と芦名が戦う必要は無いって事なんですよね? 後半は全く意味が理解できませんでしたが……要するに、目的が一致しているから戦う必要は無いと!」
私と芦名の会話を遮り、フレイが強引に結論づけようとする。
でも芦名はこれ以上話してくれなさそうだし、話を戻すにはいい見切り場だろう。
……ただ、フレイの望んでいる事と事実は少し……違う。
私の予想通り、芦名は呆れるように息を吐くとフレイをジッと見る。
「おいおい……後半どころか最初も聞こえてねえんじゃねえか? 言っただろ、もうその段階は終わったんだ。話が逸れちまったがもうこの世に残っている転生者はたった三人なんだよ」
「三人……? それは、誰のことを……」
「先日まんまと逃げ果せたあの評議会議長。そして、俺と……お前だ」
「……!」
こちらを指差す芦名に、私は息をつまらせる。
……本当に、転生者は昨日全員倒してしまったんだ。それも驚きだが……それよりも気になる部分が有った。
「君は……自分も、転生者の内に数えているのかい?」
その意味は、彼だって分かっているはずだ。それを悟っているからこそ、確かめるように、本気かとでも言うように、私は彼に問いた。
次の瞬間、一瞬の躊躇いもなく芦名はその言葉を口にした。
「ああ、もちろんだ。俺の目的は転生者を全員殺す事……この世からブラックバスやヒアリみてえな、俺達外来生物を抹消する事だ。もちろん、駆除は徹底しないとな」
……やっぱりだ。
芦名は、転生者が自分一人になれば自分も死ぬつもりだ。私は、使命として……やってはいる訳だが、自分が死ぬつもりは無かった。私は横暴な転生者を倒すという名目で来たから。
道理で、どこか投げやりな部分があるような気がしていたんだ。私と初めて会った時も、ホークアイと戦っていた時も、私と話してくれた時も、飄々として、少し離れた場所から見ているようだった。
私だって死ぬつもりで戦っているが、芦名はまた違う。死ぬかもしれないじゃなく、いずれ確実に、自らにしろ他の手にしろ、彼は死ぬ。絶対にだ。
死にたく無いなんて気持ちをとっくに捨ててしまっているのならあんな風でも理解が及ぶ。
あれは、私がフレイ達を失ったと思った時と同じだ。死んでも構わない、目の前の敵を殺す、それだけが積み重なったものが、芦名の目的だ。
……それは理解できたが、まだ穴はある。隠しているのか言っていないだけなのか、まだ聞けることは多くある。
「……だったらやっぱり、私と一緒に議長を殺してからこの勝負の続きをしても良いんじゃ無いかな? 君が今まで隠密にしていたのは、私みたいな奴が来るのを見越しての計画だからだったんだろ?」
「そうだな、いつかはお前みたいな抑止力が訪れるってことは予想していた。やって来たお前と協力して、その裏から闇討ちすると考えていた訳だが……いやいや、まさかお前のスキルが『複製』とは予想してなかった。だから、駄目なんだよ。機械都市に潜むあいつに出会わせたら最後、お前はもう手に負えなくなる。だから……無理なんだ……」
ため息を吐くように、繰り返し芦名は言った。