第三百五十三話 不都合な辻褄
「……殺す事が、計画?」
「そうだ」
淡々と言う芦名に対し、私は予想していた理由と反していた事に困惑していた。
……私は、邪魔な私達を消すために自分を溶け込ませて、隙を見せた所で暗殺する計画……とか、もしくはただ単純に苦しむ顔を見たいがために私達を騙す計画を立てていた……とか、明らかに狂人のような物だと予想してるんだけども……どうも様子が違う。
芦名の話す計画と言うのが私達の怒りを買ったり、戦う意欲を見せるためだったりとかが目的の嘘なら、私の予想していた物を出してくるはずだった。でも、転生者を殺す事が計画となると、私達の怒りを買うわけでもないし、そうなるとハッキリとこうしたいからって言う意思もないわけで、嘘かどうかも怪しい……。
何より、その計画は____
「私と目指している事が一緒じゃないか。その計画の上で私を殺す必要なんてどこにも無いと思うけど? むしろ、手を取り合った方が良い。私達と最後の転生者まで全員倒せば君の計画はもっとスムーズに____」
「ああ、お前の言う通りだ、一から十まで全部な。お前を使った方が絶対に良い。でもなあ、もうその段階は終わったんだよ」
「……どう言う事?」
緊張した面持ちで私が訊くと、彼はその場に座して語り始めた。
「もう転生者がそれぞれ国を支配してるなんて時代は、もうとっくに終わった後なんだよ。お前は西の国から始まったから知らないみたいだが、評議会連中がほぼ完全にこの大陸を掌握していた。安全にな」
「そ……そんな、まさか。だって王が無理矢理世界を変えてるってあの人は____」
「統治が完了したのは五年くらい前だ。お前の見てきたサンフォードやエブルビュート、後は……メルヘリックだったか? まあいい。大分、都と田舎で格差有ったよなぁ」
芦名の言葉を聞いて、私の脳裏にはラウの村の姿とそこにいた税を取ろうとする役人の姿が思い浮かんだ。
……確かに、あんな十数万っていう群勢を抱えていたのに、エブルビュートの荒野は……あまりにも、貧しそうに見えた。
「……で、だ。正直どこの国もそんなもんだった。ポッと出の一般サラリーマンや高校生どもが統治出来るほど国なんてものは簡単じゃねえからな。今生き残っていた奴らはあれでも随分良い方だったんだ。中には芋虫やら泥水啜って生きていかなきゃいけなくなったような国まであったらしい」
「……それで、例の議長が?」
「そういうこった。フェアラウスみたんだろ? あそこは良いよな。サクレイも美味いし、町全体にマナが漂っている。評議会は何も……全部近代化しようなんざ考えてなかった」
「ちょ、ちょっと待った! 全然私の知っている話と違うじゃないか! 君の事も聞かなきゃ行けないけど、辻褄が全然合わなくなってきた! 先にそれを詳しく教えて____」
そう私が言った時、一瞬で目の前が暗黒に包まれた。
暗黒の中には、白く輝く点がいくつもあり、それは……。
「……!」
「俺はあくまでお前と戦うために話してやってるだけだ。そこんとこ忘れんなよ。……ま、これだけは言っといてやるか」
芦名は気怠げに再びため息を吐くと、空をゆっくりと見上げ、たのしげに呟いた。
「神様ってのは、ひでえもんだよな」