第三百四十二話 土下座
どこか納得したような声の調子で、彼は私の顔をじっくりと見た。
嘘だとは思ってないらしく、至って真面目な顔だ。
……信じて、貰えたのか……?
心の中で自分に問いかけ、私は改めて確認し直した。
……やっぱり、信じてもらえている。良かった……
私は、心の中で心底安堵していた。彼の望んでいた通りにすることが出来たと、喜びも感じていた。
しかし、そんな私の胸中を引き裂くように、彼が続けて言葉を発したのだ。
「ですが……だとしたら、あなたはこの島を滅ぼしに来たということですか?」
「____!」
声にもならないような声が、私の口から漏れ出る。
息を詰まらせ、私は安堵など一気に引っ込んで目を見開いていた。
……しまった。彼の言葉を忠実にこなそうとし過ぎて一番重要な事を忘れていた。
世界にとって……私は敵なんだ。
サラマンダー達は、私が傷つく事を防ごうとしていた。その点は問題無い、全く持って。
……しかし、私が傷つく事を防ぐっていうのは、皆が傷つく事を防ぐって言うことと同じなんだ。そしてその逆も……同じように。
サラマンダーやウンディーネは、私の事を気遣ってくれているから私が傷ついたらきっとそれを防げなかった事を後悔する。自己犠牲は今一番周りを苦しめてしまう行為だ。
私がもしここでスキルを使えば、皆の安全は保てる。……でも、いくら私が気にして無いと言ったって、三人はそれを防げなかった事を後悔する。
スキルは使えない……かと言って、ここから脱走しても街に混乱が起きるのは明白だ。
……だから、こうするしか無い。
私はこちらを見据える彼の前に膝をつき、手を床につけ、四つ這いに似た姿勢になる。
そこから、更に腰を折り曲げ、深々と、頭を下げた。
「……今から言う事は、信じて貰わなくても構いません。少しでも怪しいと思えば、全員牢に入れてください。……私達はただ、ここに買い物にやってきただけです。その時にお金が足りずに、ここで換金をしに来ました。国や街を滅ぼすつもりなんて、毛頭ないんです。ただ……皆と、少しの間休息をとっていたかっただけなんです」
消え入る様な声で私は彼に伝えた。
はっきりと言おうとしたが、どうにも言えなかったのだ。何故なら……恐らく私達は捕まる。こんな口先だけのことなんて誰にでも言えるんだ。信用される方がおかしい。
捕まる事は構わない。脱出はきっとできる。……でも、気がかりなんだ。ヴィリアに次会った時、どう話せばいいのか、と……。




