第三百三十九話 切り抜けるには
彼の言葉に、煌びやかで静かな空間が更に静かに張り詰める。
私を見据える彼の瞳に、硬直して頬に一筋冷たいものが流れるのを感じる。
私だけじゃない、全員が一変した場の空気に警戒していた。今にも、戦闘が始まるかと思うほどに……。
違う違う、私達は今日殺し合いをしに来たんじゃないんだ。こんな空気、すぐに変えないと……!
硬直する身体の力を抜き、私は彼の目を見つめ返す。
「……買取で、原産地がどうなんて気にする必要ないでしょう。重さ、そしてそれが本物か。それさえ分かればそちらも納得しますよね?」
落ち着き払った態度で、不必要なら話す気は無いとばかりに私は彼へと言葉を投げた。
しかし、彼は依然こちらへ目線を外さずに見ながら。
「いえ、そうも行きません。原産地次第ではそれが不祥事に関わっている可能性もありますし、数値の偽装も施すことだって可能です。何より我々の社訓は誠実第一。お客様からの信頼は勿論ですが、こちらからもお客様へ信頼を置かなければ取り引きは出来ません」
きっぱりと、冷めた口調で私へその言葉を告げた。
私は喉元へ突きつけられたような言葉に一瞬喉が詰まり、小さくではあったが呻き声を上げてしまう。
……なんて不運なんだ。
原産地を消していなかった事は私の責任ではあるが、あまりにも運が悪すぎる。
たまたま選んだ店がちょっとの闇も見せようとしない店で、そこに一人いた店員は誠実で正直な人間。
そして、そんな彼に私達は今疑われ、このままでは取引どころか私達まで危ない。
自警団だろうが警察だろうが、保安機関を呼ばれたら最早この島にいるのも危うい。
いや……それよりも、この街に暮らすたくさんの人を怖がらせてしまう方が問題だ。ローリスクでさっさと終わらせたいなら、この店員を縛って逃げるのも一手である。
だが……そんな単純な方法、イレティナもサラマンダーもウンディーネも全員一度は頭の中に入ってきたはずだ。それでも皆グッと堪えてそうはしていない。私だって、そうする気は無い。
私がスキルを使いたく無いなんて言ったから……皆も何もしようとしないんだ。
だから、この対処は私に責任がある……!
「……後ろに、精霊が二人います」
「私はこの島の方々とは違います。精霊信仰は有りませんよ」
……苦肉の策も駄目か……! どうする……? やっぱり、スキルを……駄目だ! 皆が堪えているのに、私がやってしまったら元も子も……!
……でも、責任はやはり私にある。皆にやらせるよりも、私が、やった方が……
「お客様」
「……」
凛とした声で、彼は話しかけてきた。何かが吹っ切れたかのように、先程の警戒心とは打って変わって。
きっと、警察を呼ぶつもりだろう。少しでも動きを見せたら、『痺れ毒』で動きを……!
「正直に、語ってはくれませんか」
「……え?」
彼の予想外の言葉に、私は固まっていた。
懇願するような口調で、彼は私に聞いてきたのだ。