第三百三十八話 換金トラブル
____店の中は、表以上に煌びやかなものだった。
ショーケースの中に入れられた数々の宝石が各々にその輝きを見せつけ合い、目が眩むほどの光を発している。それらを照らすのは上から吊り下げられたシャンデリアで、フロア全体を包み込むように薄黄色く光っていた。床に敷かれた黄金縁のカーペットも掃除が行き届いており、やはり高級な雰囲気が漂っている。
しかし、そこまで至る所に金持ちの雰囲気があるにも関わらず、肝心の金持ちはどこにもいない。
私達と、今目の前にいる男性以外は、店員の影すらなかった。
その男性については、一言で言えばいかにも高級店にいそうな出で立ちと言うところだ。
転生者の誰かが広めでもしたのか、黒いスーツをピシッと着ている。身長は百八十センチと言ったところだろうか?
「……その、お客様と言うことでよろしいのでしょうか」
「お客様です」
男性は不審者を見るような目で私達を若干睨んでいたが、私が即答すると当惑する顔となった。
しかし、やはりこのような場所で働く人間と言うべきか、すぐに無表情になると、姿勢を正して私へ一礼する。
「では……ようこそ、お客様。今日はどのような御用件でしょうか」
会釈程度の礼ではあるが、私から見ても綺麗だと言うことが分かる。
そんなところにまた高級感を感じながら、私はひとつ微笑んで、彼の元へと歩み寄り。
「これを買い取って欲しいんだけど、良いかな?」
そう言って、『収納』から出した金の延棒を彼の胸元近くへと差し出した。
「へっ?」
先程の上品な振る舞いはどこに行ったのか、間抜けな声を上げて男性は金の延棒に目を奪われていた。
目を丸くして、爛々と輝く金に見惚れているようにも見えたが、どちらかと言うと予想していなかったことに直面して固まる人間のようだった。
つまり、私達がそんな大層な物出すわけないと思っていたのである。
……
……なんだろう、なんか、もやっとした。
「……はっ! き、金の買取ですね。ではあちらで査定をさせて戴きますね……」
私の気持ちを知らずに、店員の彼は今度はにこやかな笑みを浮かべて金を受け取ろうと手を差し出す。
……まあ、査定できるなら何でもいいや……。
「……うん、じゃ、お願いします」
私が金の延棒を片手に、彼が差し出す両手へ渡そうとした時だった。
一瞬、彼の目が曇ったように見えた次の瞬間。
「……あれ? これ、サンフォードの金ですか?」
「……え?」
彼が眉を曲げ聞く言葉に、私は顔を上げて驚いていた。
「見てください……ここの文字が刻まれた場所にサンフォード産と書かれているんです。……しかし、一ヶ月前にサンフォードは壊滅してしまったし、そもそも黄金が取れない地域だから市場に出回らない……」
……あれ、これもしかして。
「一体どこから手に入れたのですか?」
不味いことになったか?