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第三十二話 到着

 拉致されてから三日が経った。私達を運んでいる物は晩になると止まるので、その時に皆で箱の中で寝る。

 本当に狭くて暗いから気が狂いそうにもなるけど、皆が居てくれたので頭がおかしくなるようなことはなかった。


 仲間がいて本当に良かったと、私は改めて実感した。しかし問題は二つある。

 一つ目はこの異常に暇な空間だ。スキルが使えないので『万物理解』から情報を得て暇をつぶすようなこともできないので、昼間は駄弁ってすごす。

 

 と言っても、実際は段々喋ってくることもなくなってくるので最近は物凄く暇だ。

 そんなに暇なら寝てれば良いじゃ無いかって?……はぁ、できてたら苦労しないよ。


「うわっ!」


「またですか……!」


 箱が激しく揺れ、体が宙に一瞬放り投げられる。

 ……そう、この箱、めちゃくちゃ揺れる。だから寝ようと思っても寝れず、眠れるのは晩だけ。

 朝になるとまた動き出して眠れなくなる。……これが二つ目の問題だ。


「……フレイ」


「……何ですか?」


 私と同じく疲労しきって干し草に身を委ねているフレイに声をかける。


「……あとどれくらいで着くと思う?」


「……1時間、ですかね……」


 手錠もかけられ、かなり肩凝りも日に日にひどくなっている。


「……なんで?」


「……希望的観測です」


 フレイもかなり参っているようで、なにを聞いても空を見て呆けたままだ。


 一方、精霊たちはピンピンしている。精霊は眠る必要がないらしく、サラマンダーは晩以外はずっと片手間に剣先へ火をつけているし、ウンディーネはスラ吉の方だけ眠っているようだ。


 ……やばい、そんなことを考えている間に段々眠気に限界が来た……。

 どうせまた叩き起こされることになるんだろうけど……。


 身体から力が抜け、瞼を閉じようとしたその時。


 今まで天井として役割を担ってきた板は、突如開き蒼い空が差し込む。

 

「皆様方、お待たせいたしました。到着しましたよ」


 そこには全く変わらない目鼻立ちの整った男、エルゲがいた。


「サ……サツキ……!」


「うん!ついた、ついたんだよフレイ!」


 私はやっと箱の中から出られることに狂喜乱舞しそうになったが、そこではたと思考が正常に戻る。

 ……いやいやいや、私達は無理矢理連れてこられたんだぞ?それなのになんでこんなところで喜んでいるんだ?


 私は疲れでヨロヨロとしながらも、できるだけ姿勢を正して睨み付け。


「……人を連れ去っておいてその口ぶりとはね。こっちは辛い思いしてんだ。ここで暴れても良いんだぞ?」


 精一杯凄むが、大して怒気を孕む元気もない。そんな私の姿を見てエルゲは鼻で笑う。


「暴れる?ははは、ご冗談を。今のあなたはスキルも使えない一般人。いやそれ以下ですかね」


 こいつ……!怒りがこみ上げ頭突きでもしてやろうと思ったその矢先、ウンディーネが私を手で制した。


「落ち着きなさいサツキ。別に後で取ってもらった後にぶっ飛ばしてやれば良いでしょ」


 ……確かにウンディーネの言う通りだ。落ち着かないと。

 

「それで……デイビッドだっけ?」


 ウンディーネはエルゲに向かって訊く……いや待て、今なんて言った?


「……間違っていますよスライムのお嬢さん?私の名前はエルゲです」


「スライムは土台の方よ。え、何?エンポリオ?」


 ウンディーネの返答にエルゲは青筋を立てる。もしかしてスラ吉と一緒にいたせいでボケが感染したのか……?


「エルゲです!」


「エグゼキュート?ああもう良いわ、名前なんてお飾りよお飾り。さっさとここから出して頂戴」


 ウンディーネの返答にエルゲは顔を真っ赤にして今にも爆発しそうだったが、部下らしき人間が宥めてくれたので一応は収まった。


「……ええ、はい。田舎者の無礼を許してこそ王の補佐という物です。箱を消しますので、どうぞこちらに」


 エルゲが指を一度鳴らすと私達が乗っていた箱は突如消え、周りの風景が見渡せるようになった。


 私達が乗っていたところは何かの荷台のようだった。そして荷台の先を見ると……。


「……車!?」


 それは車だった。いやいや、モーター音も聞こえていなかったぞ!?それにファンタジーに車なんて……!いや、野暮なことは言わないでおこう。ここは転生者が異世界無双した後の世界なのだから……。


「サツキ、これはなんですか?初めて見る物です……」


「さあ皆さん、私の後についてきてください。間違っても反撃しようなんて考えないでくださいね。

 手錠が爆発しますから」


「ばっ……!?」


 爆発!?この手錠が!?……くそ、小さい割に無駄に高機能な手錠だ……。

 

 私達は荷台から降りてエルゲ達についていく。行く先を眺めるとそこには。


「わあ……!」


「デ、デカい……!」


 とてつもなくデカい、東京スカイツリー並みの高さの城があった。城と言っても中国の物のような日本のもののような。全体が赤く彩られ模様はほぼ無く、和を感じる反面無機質な近未来メカ的なものも感じた。


「王はこの城の最上階にいます。こちらのエレベーターに乗りましょう」


 エレベーターまで……!?……間違いない。ここは東よりの国だ……。


 私達はエレベーターに乗り、どんどん上まで上がっていく。

 中は中国の装飾が施され、芸術品のような物まで目に移る。


 エレベーターを降りると短めの通路と大きな扉。某ジブミ作品のような見た目だった。


「我が君、ナカニシサツキ、及びその仲間を連れてまいりました」


 エルゲは扉の前で大きな声で言う。するとそれに反応するように扉の中から声が聞こえてくる。


「おお、来られたか。中に通してくれ」


 扉が開き、そこには武士のような格好をした男がいた。黒い髭を存分に生やし、いかにも武人とでも言うような風貌。私と同じように刀を腰に刺している。


「お初にお目にかかる、中西沙月殿。拙者、名を平八五郎と申す。よろしく頼みますぞ」


「……はい?」


 よろしくぅ?

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