第三百三十七話 高級バリア
「……ここね」
上を見上げるウンディーネの横に、私達が同じように上を向いて立ち並ぶ。
金縁の看板が大きく飾られ、良く磨かれた黒岩がそれを支えていた。
看板にはこれもまた金色の文字で、『玉天』という意味合いの言葉が書かれていた。
……いかにも高級なものを取り扱っていそうだ。
歩き出して数分もしない内にここへ着いた。
周りは別に普通の店なのに、ここだけ明らかに空気感が違うのはきっと客も高級だからだったりして……。
「……サツキ、行かないの?」
「えっ⁉︎ あ、う、うん、もちろんだよ! 行かなきゃ始まらないしね! ……うん」
ウンディーネに声をかけられ、私は何度も頷いて返した。そう、行かなければ始まらないとは分かっていた。
しかし、それに反して身体は全く動かなかった。まるで店と私の間にバリアでも張られているように、そこから一歩も踏み出せなかったのだ。
「……」
横を見ると、皆も同じように固まっていた。店の前に立ったまま、身動き一つ取れなくなっている。
一番最初にお構いなく突っ込んでいきそうなイレティナまで、固まっているのだ。
店から漂う威圧感と重圧……それらが私達を足止めしていると言うのか……⁉︎
……どうしよう。本当に踏み出せないな。まるで赤信号に反射的に立ち止まってしまうような感覚だ……。
……いや、待て……赤信号? ……そうか!
頭の中でふと浮かんだフレーズに、ピンと来た私は皆の方へと顔を向け。
「ねえ、皆で一斉に踏み出してみない?」
そう、提案した。そう……有名な至言があるのだ。“赤信号、みんなで渡れば怖くない”、と!
私の提案に応じてくれたのか、皆は黙って一つうなずくと、一斉に前へと顔を向ける。
私はそれを確認すると、一度深呼吸をした。
皆で息を合わせて……寸分の狂いも無く踏み出すんだ……!
そう心の中で何度も繰り返し、心を決める。
「よし! 皆、準備はいい⁉︎ せーので行くよ! せーの!」
そう叫び、私は自分の右足に全体重をかけるようにしてその一歩を踏み込んだ。
それと共に、先程まで進めていなかった地面へと、私は足を入れていた。
ウンディーネもイレティナも、サラマンダーは浮いていたが、全員私と同じように足を踏み入れていた。
それを理解し、一気に感情が込み上げてくる。
「……や、やったー! 入れた! 私達入れたんだよ!」
「皆よくやっていたわ! 私は浮いていたからそこまでだったけど、それでもこれを突破できたのは凄いことよ!」
「バーンザイ! バーンザイ!」
各々に喜びを分かち合っていた、試練を達成した喜びに。
イレティナは両腕を上へと放り上げ、目を輝かせて喜んでいる。サラマンダーも、空中を飛び回っていた。
そんな中、一言、声が飛んできたのだ。
「あの……人の店の前で何をやっているんですか?」
まるで不審者を見るようにこちらを見る目をして、ドアの隙間からこちらを訝しむ影が一人。
「……あ」
そそくさと、私達は中へと入っていったのだ。