第三百三十六話 精霊信仰
『検索中……検索完了。南東四十メートル先の目的地までの案内マップを提示します』
頭の中に『万物理解』の声が流れると同時に、頭の中とも目の端とも表現できない場所に現在地と目的地を結んだナビが提示される。
もちろん目的地って言うのは金を買い取ってくれそうな貴金属店な訳だけど……果たしてドンと延棒出して簡単に買取了承してくれるだろうか……。……考えても仕方ないな、とにかく時間かけてでも現金は入手したいし。
思考に一区切りをつけ、私はそわそわと待っている皆の方へと顔を上げた。
「ここの角を進んで右曲がり、それで大通りに出るから、その並びを歩いていけば店が見つかるってさ」
影に覆われた細い小道の先を指差し、私はひとまず道の行き先だけを全員に伝えた。
サラマンダーやイレティナは了承したのか一つ頷くと、すぐに歩き出す。
しかし、ウンディーネは顎に手を当て何やら考え事をしているようだった。
「……案外近いのね。道を一つ挟んだすぐ先だったのに、どうしてあの女の子は教えてくれなかったのかしら……」
独り言のようにブツブツと呟くウンディーネの言葉を耳にし、私もふと先程疑問に思っていた事を思い出した。
「そうだ。ウンディーネ、どうしてさっきの八百屋さんの女の子ってウンディーネが精霊だってわかった瞬間あんな風になったの?」
私の質問に、ウンディーネは一瞬キョトンとする。
「あんな風……? えっと……ああ、敬語が形だけのものじゃ無くなっていたことね。例えるならマナティクス様を目にした時みたいな態度だったかしら……それだと私がマナティクス様になっちゃうからとても無礼だけど」
「そう、その態度。いくらマナティクスを祀る島だからって、精霊にあそこまで畏るかな?」
この島の人間で会った人といえば、ヴィリアだけだ。ウンディーネのさっきの対応からして、何か知っているとは思うけど……。
道の先を眺めると、しばらくもしない内にウンディーネは口を開いた。
「そうね……確かに精霊なんて探せばどこにでもいるものだし、ましてやここは精霊が特に洞窟なんかにたくさんいるわ。一種の生物という概念で括られてもおかしく無いわね。
……でも、そうじゃ無いのはこの島の宗教上の問題よ。ヴィリアから耳にしたんだけれども、この島では精霊がマナティクス様の使いという考えが主流らしいのよ。近くにはいるけど特別な存在で、超常的な現象を起こしてもおかしく無い……そう考えられているらしいわ」
「なるほどね……言うなれば身近な神秘……。まあ実際そうだよね、マナで作られた身体で、その上で別の物に宿るっていうのも驚きだし……」
牛が神様の使いなんていうのも聞いたことがあるけど、この島では精霊がそれに当たるのだろう。
それならあんなに敬われてもおかしく無い、なんて思いながら、私とウンディーネはイレティナとサラマンダーの後について歩き出したのだった。