第三百三十四話 はっちゃけ交渉
「なんでもへちまもありませんよ! うちは八百屋なんですよ⁉︎」
「語感全く被って無くない?」
「そこはどうでも良いんです! それよりも、お客さんこれじゃ流石にこちらも売れないんですよ……! なんですかこれ……⁉︎」
亜麻色のショートヘアの女の子は、汗をだらだらと流して私が台に載せた物を強く指差した。
そこにあったのは、私の持っている唯一等価交換の価値ある物。
「金ですけど……」
「だっっからそれがおかしいって言ってるんですよ! お金じゃ無くて真っ向から金じゃないですか⁉︎ あなたが欲しいって言ったのはサクレイ一個とカサカムリ数株だけですよね⁉︎ それを金⁉︎ 金の延棒はおかしいですよぉ!」
慌てているのか怒っているのかわからない口調でわなわなと震えながら、視線を私の目と金の延棒の間で何度も行ったり来たりする。
ちなみにカサカムリは前の世界でいうところのキノコだ。エノキに似た見た目だし、食材に使えるかと思って買おうとしたのだ。
あと、私の姿を見ても至って普通の態度を取っているのは私が仮面をつけているからだ。
……確かに、明らかに金の延棒は交換レートをオーバーしているけど、以前港町では通用したし……。
「お釣りは要らないので……」
「お釣りが実際の価格の数億倍なんてこっちが容疑かけられますよ! ……それに、そんな物やすやすと出すあなただって怪しいんですから……」
女の子は腰に腕を置き、ジト目でこちらを睨みつける。
それに私が汗を垂らして若干後ろに引いていると、ウンディーネが私の肩を静かに叩いた。
「サツキ……流石に金で押し通すのは無理があるわ。ここは一度、お金にした方がいいと思うの」
「金と金ってめちゃくちゃややこし」
「黙って」
ウンディーネは何かを堪えるような表情で、私を後ろへと引っ張り上げる。
スキルを一つも使ってないからなす術もなく私はウンディーネのされるがままだったのだ。
ウンディーネは私にとって代わり、女の子と会話を始める。
「は、ははは。ごめんなさいね私の仲間が。でもこう言うことも日常茶飯事なの……私の姿を見れば分かるでしょう?」
ウンディーネの言葉に、女の子は一瞬首を傾げるが、少しもしない内にハッと何かに気づいた顔をする。
「あ……精霊様でしたか! 随分人に似ていたから気付きませんでした!」
「分かってくれたかしら? ああそれと、こっちの刀も精霊なのよ?」
全くわからん。
頭の中にはてなマークを浮かべた私を置いたまま、話は着々と進んでいく。
気づいた頃には、なんか普通に解決していた。