第三百三十一話 発見
「えっ⁉︎ そ、そんないきなり⁉︎ 皆ちょっと待って!」
私は驚きつつも、イレティナ達のいる方向へと走っていった。
若干盛り上がった坂のような地面に足を踏み込み、すぐに皆の元へと追いつく。
風に髪をなびかせるイレティナは、すぐ先の地面をジッと見つめて立ち止まっているようだった。
「ほらほら! これだよね⁉︎ これが街なんだよね⁉︎」
「え……? これってどれ……あ!」
イレティナが見ていたのは、地面では無かった。
彼女より先に地面はなく、代わりにあったのは真下から続く清廉とした風景。道は白々とした煉瓦で舗装され、一定間隔で暗い緑色をした街灯が置かれている。中でも広々とした道、その先には円形状の広場の中心に噴水が太陽と共に飛び散る水を煌めかせていた。
私達が今崖から見下ろしているその風景は……間違いなく、街だった。
そうか……いきなり現れたように見えていたのは、私達が目指していた方向が崖にあったからだからか……。
決して疑問が解決したわけではないけど……これは『万物理解』の新たな弱点かもしれないな。
聞かなければ地形までは詳しく教えてくれない……と。
そう考えていながらも、私の視線は街中の風景へと奪われていた。
道の横に並ぶように、赤煉瓦で作られた屋根の家がどこまでも続き、その中には物を売り歩く人や店先で商品を並べる人、そしてたくさんの人達が歩いている。
老若男女に偏りは無く、その誰もが日の光の下生活していた。
「すごい……綺麗なところ……」
イレティナも、私と同じくその光景に目を奪われていた。
しかし、少し理由が異なるようだ。
「イレティナは……ここを綺麗って思うの?」
「うん、すごい。人が暮らしている場所なのに、山とじゃ全然違う。まるでお父さんの仮面をそのまま大きくしたみたいに、皆輝いているよ……!」
声を震わせて、イレティナは彼女の金色の目を輝かせていた。
確かに、綺麗だ。前だったらイレティナの気持ちもほとんど推測でしか捉えられなかったろうけど……わかる。考えなくても確かにそれに同意できる。
ラウの村は、乾いた大地の中に佇むような村だった。ラウみたいに、個人個人の光があの村にはあったように思えるけど……この街は、街自体が輝いている。太陽の光に当てられて薄明るく光る煉瓦の道は、光の眩しさをより一層引き立たせてくれているんだ。
経済的にも、見るからにここは良い場所だ。正直ここに生まれてくる人は恵まれているとまで思えてくる。
でも……私の感じた事はそれだけじゃ無かった。それを伝えるために、私は目を街に釘付けにしながらも、静かに口を開く。
「皆……すごく幸せそうだ」
私がもう何度か目に訪れる人の住む場所。
今度は一体、何を得られるだろう。