第三百二十八話 食後のひととき
____食べ終わって、しばらく経った。
満腹感とまではいかずとも、朝に食べるシリアル食品のような感覚で豆を食べていたので確かな満足感はあった。
今はそれぞれ自由行動だ。フレイとヴィリアは洗い物をしている。私達は二人に好きなようにしていて良いと言われたので、散歩に行くことにした。
しかし、散歩に行くのは私、サラマンダー、ウンディーネ、それとイレティナのみだ。
イツはもう疲れたと言って眠りに行ってしまった。
サラマンダーとウンディーネは少し暇なのか、二人の洗い物を見てあれこれと口出しをしている。
「ねえねえサツキさん! どこ行く?」
皿洗いをする二人の姿を眺める私に、イレティナが横から裾を引っ張って話しかけてきた。
目を輝かせて、いかにもワクワクとした面持ちで無邪気な笑顔を見せる。
「あはは……そうだねどうしようかな」
しかし、私はイレティナとは反して苦笑気味に彼女へ返事を返す。
無邪気とは言ったものの、身長は私より小さいかどうか程の大きさで、何より近いからヴィリアなんかよりもずっと大きく感じる。
こんなに無意識にパーソナルスペースに入るような人は初めて見た……でも、慣れなきゃな。フレイはイレティナの事をしっかり仲間、って思ってるし、何より私も色々な人と仲良くなりたいから。
そう考え、私はもう一度イレティナに微笑んでから、顎に手を当て行き先をぶつぶつと考える。
「一番近いのは森だけど……さっき見たし、それにイレティナは見慣れてるんじゃ無いかな?」
イレティナの身体には所々に入れ墨のようなものが入っている。
服装もフレイやイツなんかとはだいぶ異なっているし、何より入れ墨を入れている理由がオシャレなんて子とも思えない。
大方部族というか、そんな所だろう。
さっきもピンとは来ていたけども間違ってはいないと思う。
私の問いかけに、イレティナは案の定頷いて外を見回す。
「うんうん! そうなんだよね! ここの森もちょっと違うと言えばちょっと違うんだけど……やっぱり、折角すぐ近くに見慣れないものが有るんだから行ってみたいよ!」
「見慣れないもの?」
腕を前に突き出してブンブンと振り回し、イレティナは更に遠くへと目を向けていた。
その方向を見ると、僅かに赤色の屋根が目に映った。木々の間から顔を出す暗めの赤は、煉瓦でできているように見える。
あれは……家の屋根だよな。
「私山育ちだから、ああいうの見慣れていなくて! だから……行ってみたいんだけど良いかな?」
おずおずと聞いてくるイレティナの態度と言葉でピンときた。
そうか、街か! 確かにここ最近見た村といえばラウの村……とてもじゃ無いが街とは言い難い。あそこはあそこで良いとこあるけど、私も街を見るのはコウキの国以来だ。
「……良し! サラマンダー、ウンディーネ! 行先決まったよ! 目指すは、森を抜けた先だー!」