第三百二十七話 食事
___私は、食卓についていた。
目の前にはボウルいっぱいに入って、所々に焦げ目の付いた豆がある。香ばしい匂いの正体はコレだったらしく、昨日の肉とはまた違った方向で食欲を引き立たせてくれていた。
石台を囲んで、ヴィリア、フレイ、イレティナ、イツ、そして私が座る。
フレイが最後の自分の皿をコトリと置くと、次の瞬間イレティナが声を上げ。
「それじゃいただきまーす!」
そう言い切るよりも早く食器を掴むと、イレティナは一気に豆を掻き込みだした。
息を吐く間も無くガツガツと食べ、口いっぱいに豆を頬張って咀嚼音を立てながら噛み砕く。
「……」
フレイを除いた全員がその食いっぷりに唖然としている中、フレイだけが微笑んでいた。
「イレティナ、そんなにお腹が空いていたなら先に食べてくれても構わなかったのですよ?」
その言葉に、イレティナは掻き込むのを止めてフレイの方を向いた。
数十秒口の中の物を噛み続けた後、頬いっぱいに入っていた豆を胃の中へと流し込んでイレティナは口を開く。
「ううん、いいよ。待つ。だって、皆が集まってから食べた方が絶対美味しいもん!」
首を横に振ってそう言うと、彼女は再び口の中へと豆を流し込んでいった。
イレティナ……そこまで関わりがあったわけじゃ無いけど、すごい仲間思いの子なんだな。
一見自由奔放……というかまあ、そこは決して間違っているわけじゃ無いんだけども、食べ物もよく噛んで口を開く時も飲み込んでから……。何というかマナーがなっている。
う……少し自分が恥ずかしくなってきたかも……
そんな気分を少しばかり抱えながら、私も自分の前に出された料理へと向き直り、ボウルを手に取った。
「じゃあ私も食べさせてもらうよ、いただきます」
いつもより少しだけ礼儀正しく言って、私はスプーンを豆の中へと突っ込んだ。
コロコロと豆が転がる動きをスプーンごしに感じる。それと共に豆と豆が擦れ合うようにガサガサといい、まるでボールプールの中のようだった。
掬い上げると、薄茶色の豆達が不揃いな形をして乗っていた。
溢れても大丈夫なように器を受け皿にこちらへと寄せ、その一口目を、口へと入れた。
「……はむ」
その瞬間、今まで何度も感じてきた香ばしい匂いが最も強く口の中で溢れ、鼻へと抜ける。
そのまま豆を噛むと、先程イレティナから聞こえていたバリボリと言った硬い音と振動が顎へと伝わってきた。
食感と匂いを感じながら、私は豆を喉へと流し込み、飲み込んだ。
……美味しい。ただの豆のはずなんだけど、豆ってこんな美味しかったっけ。
特に香りがすごく強い。そりゃマナティクスと話し終えたところから感じたんだからわかり切っていた事だろうけど……本当に強い。
「⁉︎ 何だこれ……うめえ! ちょっと表現出来ねえけど、すげえうめえぞ!」
イツも私と同じように感じたのか、驚いた表情をしてフレイの方を向く。
しかし、フレイはイツとはまた違い目を見開いて驚いていた。
「え……? そんなにですか? 確かに炒った豆は初めてですけど、これくらいでは……」
それに伴い、イレティナもヴィリアもイツを見て不思議そうにする。
「私にも普通に感じるが……」
「うん。これくらい、だよね?」
二人の言葉にイツはさらに混乱して、私も同じように困惑していた。
「えぇ……かなり美味しいけど……あ」
しかし、皆をぐるりと眺めて、ピンときた。
自然育ち……か。