第三百二十二話 不明
マナティクスはこちらに横顔を見せ、身体から淡い光を放っていた。
顔は無表情で、きっぱりと私にその言葉を言い切って見せたのだ。
「神の姿と言うのは、不変であり決まっている。私の人間の姿も珠の姿も、全て定まった形なのだ。
破壊神の人間態は若い男の姿だったと聞く。だからその男では無い」
「……だったら、私の出会ったあの人は何者だって言うのさ。神と名乗るほどの力は十分に持っていたし、何よりも私に転生者の回収を指示したのは他でも無いあのお爺さんだ。あの人が破壊神じゃ無いなら一体誰が破壊神なんだよ……」
マナティクスの言う事が間違っていると言いたい訳じゃ無い。しかし、今わかっている矛盾した点はとても曖昧で、どちらが正しいとも言い難い。
転生をさせられるのは現在破壊神のみ、そして私を転生させた老人、アスター……。
しばらく考え、私の仮説がまとまった頃にマナティクスも顔を上げた。
「可能性で考えるならば……破壊神の魂が誰かに乗り移って別の神として振る舞っている……」
「もしくは、破壊神は全く関係無かったりして? 新しい、何かの理由で生まれた存在が動いているとか……」
私とマナティクスは、お互いに向き合って話す。
マナティクスの仮説は十分あり得る話だと思う。
ただ……その可能性に全てを賭けるのは良いものとはいえない。私の仮説に至っては身も蓋もない話だが、それも一つの可能性として考えるべきだと言う事だ。
「……まあ、予想するしかない、って結論に落ち着いちゃうよね……。これ以上話しても意味はないでしょ」
「ん……ああ、だったらもう、貴様の質問は終わりという事で良いんだな?」
彼女は少し安心した声で私へ問いかける。
……結局疑問に思っていたことは解決できなかった。常に満月な理由……それは遠い、遠い過去に置いて行かれてしまったのだ。
「……うん、良いよ」
私がそう言うと、彼女はすかさずフレイ達との間を阻んでいたマナの壁を解除し、光を空間へと取り込んでいく。
暖かな太陽の光が降り注ぎ、身体に染み込んでいく。そうして陽気に当てられていると、不意に前方から声が飛んできた。
「サツキ! 話は終わったんですか⁉︎」
顔を上げると、嬉々としてこちらへ向かってくる小さな少女がいた。
無論、フレイだ。笑顔を見せこちらへ歩み寄ってくる彼女に微笑んでいると、不意に鼻腔へ香ばしい匂いが漂ってくる。
「うん……フレイ、この匂いは……?」
「朝食ですよ! 山菜を炒めて作ったんです! かなり上手く作れましたからどんどん食べてくださいね!」
私へそう声をかけると、フレイは再び料理場の方へと足を運び皿に作った料理を載せ始める。
中々美味しそうだ……期待しちゃうな。
「サツキ……最後に一つ良いか?」
フレイの姿を眺めていると、背後から少し後ろめたさを帯びた声が聞こえてくる。
振り返るとマナティクスがそこにいた。不安げな表情で、何かを憂いているようだった。
「その……フレイの力は、神の力に近い。私が干渉したからか彼女のマナの扱いも変質したのだ。……だが、出来るならこれは彼女に____」
「言わないさ。何せフレイが死に物狂いで手に入れた力なんだ。どう言った感じかは知らないけども、フレイが勝ち取った物には違いないしね」
私がそういうと、マナティクスは安心したように頷き、再び空中に座るような姿勢を取って海を眺め始めた。
……彼女、自分の秘密をばらさないかよりも、フレイの事を最後に心配していた……。
……彼女が人を絶滅させようとしていた事よりも、そっちの方が大事なのか?