第三百十九話 創造神
創造神と……破壊神……。
マナティクスの言ったその言葉に、私が最初に思い、そして言った言葉は……。
「……安っぽすぎない?」
「神の紡いだ歴史に安っぽいとは何だ。貴様の世界ではありふれた作り物であっても、この世界ではれっきとした真実なのだぞ」
呆れと訝しみが混じった私に、マナティクスは少しこちらを睨んで言い返す。
彼女の態度からして本当の様ではあるが……ここの正体は創造神と破壊神が作った世界、か……。
そんな逸脱した存在が作り出したってんじゃ、月がどうのなんて適当な理由で正当化されてしまっているに決まっている。
「思ったよりも単純なんだね。この世界……」
若干落胆して、私は独り言を呟くようにぼやいた。
しかし、マナティクスは私の言った言葉に対してすぐに睨んで言い返す。
「そんな訳あるか、創生時代の世界など今では面影も残っていない! ほとんどこの世界には手をつけてやれなかったからな……。 第一、この世界の基底は貴様の世界と完全に一緒だぞ」
……一緒? マナが大気に満ちるこの世界と……私の住んでいたあの世界が?
「それって、どう言う……」
「法則が似た世界から転生させられていると言うことだ。そもそもの話だが、重力が存在しない世界の住民がこの世界に来たらどうなる? 骨格や肉体が重力に耐える構造をしていないから漏れ無く圧死。これはまだ生易しい方だ。噛み合わなさ過ぎれば意識が大気中に分散され死ぬことすら許されず永遠にこの世界を漂うことだってある」
……なるほど、この世界と前の世界が偶然似ている訳じゃなくって、数多ある世界から偶然似た世界から引き連れてきたって言う訳か……。だから草木があるし、太陽も月も見える……。
あれ? でも待てよ?
「私が最初に殺した転生者から聞いた話だけど、私達の体内にはマナを貯蔵する臓器が作られているらしいじゃ無いか。モンスターだっている、魔法やスキルがあるこの世界にどうして私達が適応しているんだよ?」
私の質問に、意外にもマナティクスは目を見開いて驚いていた。
「な……貴様達の世界には、マナが無いのか? おかしい……以前の世界とは違うのか……?」
「え……知らないの?」
「……転生者が再び現れたのは、ほんの百と数十年前程だったのだ……。それ以前に転生者を最後に呼んだのは数十億年も前……私と奴が戦争を始めた頃だった」
マナティクスは顔の下半分を覆って困惑する。ここまで強く感情を見せたのは初めてだ。
彼女は……転生に関わっていないのか? だったら……そのもう片方の神が関わっていると言うのか……。
「……あんたは本当に転生に関わってないの……?」
「ああ、既にこの身は廃れ、マナを司ることしか出来ない。かと言って……奴が動き出すとなるとそれもまた奇妙な話なのだ……」
眉間にしわを寄せ、彼女は悩んでいた。
「どうして……奇妙なの?」
私の質問に、マナティクスは沈黙する。
しかし、今度に恐怖を感じていたのはマナティクスでは無かった。質問をしてしまった、私の方だったのだ。
彼女から出る何かが、一気に変わった。純白のエネルギーなのは変わらないはずなのに、まるでそれは、全てを漂白するような暴力性が____
「私が、あの破壊神を殺したからだ」