第三百十三話 完治
私が驚愕の声を上げると、ヴィリアが少し唸って眉を歪ませる。
咄嗟に口を塞いで、再び静かにすることを徹底してイツをまじまじと見た。
特徴的な赤髪、そしてさっきの声の調子や聞こえ方……何故か包帯は巻いているが、以前見たことのある服装と、腰に差した一本のダガー……。
……間違いない、イツだ。
「……どうしてここに?」
私が少し訝しんで彼へ問いかけると、彼は意外とでも言うように眉を上げて目を見開く。
「あ? フレイから聞いていないのか? 評議会から辛々逃れてここにきたんだぜ?」
彼が肩を竦めて言う言葉に、私の脳裏であの記憶が蘇った。
フレイが、評議会へ移動するために、イツから転移装置を渡してもらったと言っていたことだ。
「あ……そっか、イツも私を助けるために手助けしてくれたんだ……!」
「そう言うことよ。……ま、俺は一時は引き止めはした身だし胸を張って言える立場では無いけどな。でも、お前がここにいるって事は、あいつらやり遂げたんだろ?」
イツは満足げに、口元に笑みを浮かべていた。
まさかここでイツに会えるなんて……。あれ? でも待てよ?
不意に浮かんだ疑問に、私はイツの方をまじまじと見ながら。
「昨日の夜はイツの姿が見えなかったけど……それに、その傷は?」
彼の腕を指差し、私は彼に問いた。
しかし、彼は再び驚いた顔をして、私が指差した腕を一瞥もくれずに気にしない様子でこちらを見る。
「お前……覚えてねえのか? 評議会で起きた事……」
唖然とする様子まで見せ、イツは私へ確かめるように聞く。
評議会で起きた事……? ……記憶が曖昧で思い出せないんだよな……。
イツの態度からして中々重要な事を忘れているようだ……。申し訳なく思いながら、私は彼の腕へと手を伸ばす。
「ごめん……今はちょっと思い出せなくって……。代わりに、この傷を治させてもらうよ。『変化』」
私の言葉に首を傾げるイツを他所に、早速私は『変化』を発動した。
緑色の光がイツの傷を包み込み、その骨や、肉を健康な物へと変化させていく。
しかしイツは自分の身体に何が起きているのか理解できず、目を見開いてただ光を見つめるだけだった。
「お、おい……これ何してんだ? 何のスキルを使ってんだよ?」
「まあ任せておきなって。……よし、できた」
完成すると同時に頷き、私はイツの腕から手を離す。
朝日を圧倒するような光はかき消え、後には登りつつある陽光に照らされるイツの腕があった。
「……? 何を……って、は⁉︎ お、おいサツキこれ!」
手を上下へと振り回し、イツは自分の手を愕然とした表情で見つめた。
ヴィリア達が起きないようにと、人差し指を自分の唇に当てて私はイツへと一言いった。
「散歩にでもいく?」