第三百十二話 赤髪との再会
____翌日。
「……ん、朝か……」
静かにそう呟き、重たい身体をゆっくりと上半身だけ起こす。
硬い地面の上だったが、久しぶりに安心して眠れた。というよりも、眠れない時は疲労した脳細胞を『変化』させて死なない様にしていたし、寝る事自体が久しぶりかも知れない。
でも、今日眠れた理由は、きっと色々だと思う。フレイ達が助けに来てくれた事、私が勇気を振り絞れた事、芦名が昨日私にアドバイスをくれた事……。
この朝は、私だけではきっと迎えられなかった。しっかりと、噛み締めよう。
朝日はまだ登り始めたばかりらしく、松明が消え薄暗くなった室内に外からの淡い光が差し込んでいた。
地面にはイレティナやヴィリアが倒れ、静かな寝息を立てている。
サラマンダーとウンディーネは眠らないにしても、フレイの姿が無いと言うのは少し奇妙だ。……いや、フレイは元々早起きだったし、気にすることでも無いか。
背筋を伸ばし、身体を眠りから覚ました。腕から垂れ下がるローブが地面と擦れ合い、微かに静かな空間へ音を鳴らした。
両腕を支えに脚を持ち上げると、それに連なって地面に散らばったローブが上へと持ち上げられていく。
衣擦れの音は仕方無しではあったが、二人が起きない様に、私は足を静かに持ち上げそろりそろりと忍び足で歩いた。
起きないかと若干心配気味に二人を見ていたが、イレティナもヴィリアも眉一つ歪めずに気持ちよさそうに眠っている。
どんなに性格が違っても、寝顔は皆同じなんだろうか……。
その様なことを考えていたが、歩みは止めていなかった。ある程度離れたところで、忍び足はもう不要だろうと普段通りに歩き始めようとしたその時。
「おい、サツキ。ちょっと待てよ」
不意に、声が耳に飛んできた。
どこかで聞いた事がある様な、軽口な口調の男の声だった。私の名前を知っている……? 芦名じゃ無いな。一体誰だろう。
すぐ横から聞こえてくる。誰かが、そこに居るんだ。
少しばかり警戒しながらも、ゆっくりと目を向けると目の前にいたのは。
「……よっ」
赤髪の男が、石の台のようなものの上に立って私の方をジッと見つめていた。
片手を少し上げ、こちらを少し懐かしそうな目をして見ている。
「……イ……ツ……⁉︎」
「久しぶりだな、サツキ」