第三百三話 失言
幸いにしてフレイはラウに『機械仕掛けの神』をまだ見せていない。
きっとまだ、誤魔化しようがあるはず……そうだ、さっきの続きで、充分押し通せるはずだ!
私はラウの方へとくるりと体ごと回り、内心ドギマギしているのを悟られないように笑顔を向けながら話し始めた。
「少し驚かせちゃったかな? この子は私の妹で、一緒に旅をしているんだ。外でちょっと待っているようにお願いしたんだけども、待ち切れなかったみたいでさ……」
以前使った設定をそのまま持ち込み、私はスラスラと言葉を並べていく。
割と上手く喋れたんじゃ無いか、なんて思っていたが、ラウの表情は何処か納得の言っていないような面持ちだった。
「……そう、なんだ。でもなんでサツキさんの妹さんは、その……白髪なんだ?」
ラウの鋭い質問に、私の息が詰まる。
そこ……聞いてきちゃうか……! どうする? ストレスでなったとか……いや、そしたらもっと理由を聞かれるでしょ!
「……サツキさん?」
考える内にも沈黙の時間は伸び続ける。
伸びれば伸びる程、もっとラウに怪しまれることになる……! こうなったら、話を逸らすしか……!
止むを得ず、あまり良いとは思えない打開策を講じようと口を開きかけたその時。
「そんなこと……聞かないでください」
私が言葉を発するよりも前に、苦しげなフレイの言葉が、空間に響いた。
その儚げな雰囲気と絞り出すような言葉に、ラウは一瞬固まったが、すぐにハッとして両手を自身の眼前で合わせると。
「すっ、すまない! 話したく無いならそれで良いんだ! サツキさんにも……助けてもらったのに、言いたくも無い事を言わせようとするなんて、仇で返すような真似しちまった……」
「えっ……あ、う、うん、気にしないで良いから!」
平身低頭とばかりに頭を下げて謝るラウに、少しばかりポカンとしてしまったが、私は両手を突き出して笑いながら振って受け流した。
フレイの方へちらりと目をやると、若干汗をかいていたが、得意げな顔をしてこちらへと片目をつぶってアイサインらしき物を送っていた。
……やってやったってわけか……。日に日に、フレイの演技力が増しているような気がする。
でも、助かったな。フレイが対処してくれていなかったらもっとまずい状況になっていたかもしれない。
ふともう一度目をやると、ラウがまだ申し訳なさそうにしょげていた。
……なんか流石にかわいそうだな。ちょっとぐらい、気にして無いって伝えても良いかな……。
「……ね、ねえ、妹はこんな風に言っちゃったけども、本当はそんなに気にして無いと思うから、そんな気にしないで大丈夫だよ? ……あっ、そうだ! もっと小麦の樽を増やしてあげるよ!」
励ますつもりで言ったその言葉。何の気も無しに、ただ元気付けたいと言うだけで、自分のできることを最大限に活かそうとしていた。
そのために、私は自分の失言に気付いていなかったのだ。
「……え? 樽を増やす……って?」
「え?」
「っ……!」
……あっ。