第二百九十七話 少年
後ろから唐突にかけられた声に、私の体が硬直する。
誰かに何故か見つかったというのはわかる。しかし、現状に反して私の頭はやけに冷静だった。
んー……何で見つかった? というか誰だ? ここには私と少年しかいないはず……
バレたのならと透明マントを脱ぎ、振り返るとそこにいたのは。
「……アンタが助けてくれたのか?」
先程まで昏睡していたはずの、少年だった。
上半身を起こしてこちらをジッと見る姿に、私の思考が凍結して、口を半開きにして一瞬固まる。
……えーっと……頭蓋骨にヒビを入れられて寝込んでいた少年が、一瞬でパッと目覚めたと。
そうして事実を整理した後、私はハッと気付いて後ずさる。
「ええぇ⁉︎ なんで起きてんの⁉︎ いや治したよ、治したけどね⁉︎」
あまりにも予想していなかった出来事に、途中から私の叫びは息が続かなくなってただ口を動かすだけとなってしまった。
しかし、少年の方はむしろ私の言葉がどういう意味なのか分からなかったのか、不思議そうに私の顔をジッと見る。
「……? だから、アンタが治してくれたんだろ? その……ありがとう。あの時は、俺本当に死んだと思ってたよ」
少し話しづらそうに目を伏せながら、言葉を探って少年は私に礼を言う。
「え、あー……うん、その気持ちはきっちり受け取っとくけど……私が聞きたいのはそれじゃなくって……」
「?」
……やめだ、多分いくら探っても答えは出てこない。
ひとまず脳の片隅にメモしておくとして、この疑問は置いておこう。
さて……もう一度現状を振り返ろう。私はなぜか声をかけられ、それで透明マントを脱ぎ、挙げ句の果てにこの少年に完全に姿を見られている。
あれ? 思ったよりもまずい状況なんじゃ……。
いやいや、まだ大丈夫、さっさとこの場から離れれば良いだけなんだから。善は急げ、一言返して帰ろう。
そう思い、下手な作り笑いをして私は少年の方へと顔を向ける。
「えーっと……じゃあ、私は先を急いでいるから。多分もう動けると思うけど、私の事は言いふらさないでね、それじゃ!」
早口で相手の返答も入れさせないまま畳み掛ける様に言葉を並べる。
そのまま扉へと直進しようと、私は回れ右をした。
しかし、その瞬間。
「ッ、待ってくれ!」
強く引き止める様な口調で、少年が私の背へと言葉を投げた。
何事かと気になり、ちらと首を後ろへと向けて横目で見ると、少し呼び止めたことを後悔している様な、若干顔を赤らめた少年の姿が有った。
「そ、その……どうやって治したか、教えてくれないか? 将来医者になりたくって、色々と勉強しててさ……」
ポツリと、先程の叫びとは真逆と言って良いほどの小さな声で呟いていた。
……まあ、素性も知れない人間よりも、本当であれ嘘であれある程度私と言う物を知っておいてもらったほうが広められなくて済むかも知れない。
五分だけ、話してみるか。