第二百九十四話 心配
「やっておきたい事……ですか?」
フレイは今度は何だと言うように若干呆れた口調で私の言葉を繰り返す。
彼女からしたら今言ったばかりなのにと言いたい気持ちなのだろう。その気持ちもわからなくは無いけど……。
「うん。あの子結構怪我していたからさ、私の『変化』で治してあげたいんだよ」
医者のところに連れて行く……とは言っていた気もするけど、私が治した方が早い。
一度関わっちゃったんだから最後まで面倒みてあげなきゃ、なんて気がするから。
しかし、私の言葉にフレイは少しの間顎に手を当て悩む様に唸ると。
「うーん……。ですがサツキ、先ほども住人の方に勘付かれかけていた……というか、ほぼほぼ勘付かれていましたよ? 今あそこに行ってもすぐにバレてしまうんじゃ……」
フレイは私の考えに賛成しきれず、気がかりな点を私に告げた。
確かにフレイの言っていることは間違いない。私が今普通に挨拶しに行ったりなんてしたら十秒もしないうちにバレる。
……でも。
「大丈夫。一つ考えがあるんだ!」____
_____歩いて数分。『万物理解』を使って少年の位置は簡単に割り出せた。
そして今は……ある小屋の手前。周りの家とは違い清潔感が強く、扉の横には目印とばかりに太い十字線が入っている。
「……さて、ここがお医者様のいる場所ってわけだ。説明した通りにやってくるから、待っててね」
私は横に立ち並んでいたフレイへ顔を向け、気楽な口調で一言声をかけた。
それに対して、当のフレイは心配そうな顔をしている。
「大丈夫とは思いますけど……本当に気をつけてくださいね? 治したらすぐに帰ってきますよね?」
「もちろん! じゃ、行ってくるね」
フレイに向かって強く頷き、私は扉へと歩んでいく。
フレイがここに来てからずっと私を心配してくれているのは、きっと私が傷つくことを恐れているんだろう。
一度心が折れてしまった私の元まで駆けつけて、勇気づけてくれたのはフレイだ。
その後に何度もホークアイに誑かされそうになった時も、フレイは声を張り上げて私を止めてくれた。
それは……自分で言うのもアレだけども、私の事をすごく大事に思ってくれているからだろう。
まだ把握しきっていない場所、新たな危険、そんな中を進んでいく私の姿は、彼女からしたら小さな子どもが外で遊ぶようなものに見えるのかもしれない。
……不服、と言うわけではないけど、フレイに大丈夫って思ってもらえるくらい、私も強くなりたいな。
そのためにもまずは、何事もなく私のしたい事をしないと!
扉の前に立ち、私はドアノブをそっと掴む。
下に下げ、若干軋むような音を鳴らす扉をゆっくりと開けた。
「お邪魔しまーす……」