第二百九十三話 助けたい
「な……何だきさ____」
「『痺れ毒』」
うろたえて口を大きく開ける男二人に向かって、私はすかさず微量な紫色の液体を発射する。
彼らの口に一滴程入った瞬間。
「っぁ……ぐぁッ……」
「っ……」
僅かに悶える様な声を上げて、ドシャリと音を立てて地面に倒れた。
……やっちゃった、自分で止めに行っちゃいけないなんて言っておきながら、またどうにも体が止められずに……。
「な……何だぁ……? いきなり、人が現れて、お役人さんを倒しちまったぞ……?」
後ろから聞こえてきたその言葉に、私はハッとした。
しまった……そう言えば人がいたんだ……!
「……」
「あ……あの姿、何処がで聞いた様な……」
また別の人間が、私の後ろ姿を見て誰かと話している様だ。
感づかれるのも時間の問題か……? いや、すでに若干気付かれている可能性も……。
「ぅ……」
私の頬に汗が一筋流れた時、背後から僅かに呻く声が聞こえてくる。
振り返ると、そこには先ほど散々に暴力を振るわれていた少年が地面に伏せていた。
「おお、そうだそうだ! こんなことしてる場合じゃねえ! お前ら、さっさとラウを医者さんとこに連れて行かねえと!」
「そうだな、この傷だと骨もやってるかもしれんし……あ、あんた、旅人さんかどうかは知らんけど、ありがとうよ」
「……ええ、お気になさらず」
礼を言いながら少年の肩を抱える男に、私は短く返事を返す。
近くにいた男達は全員で少年を支えると、息を合わせながら走って何処かへ行ってしまった。
「……ふう、ギリギリセーフ……」
「何処がセーフですか!」
私がほっと一息をつくと、上方から怒鳴りつけられ、私の身体が縮こまる。
ばつが悪く屋根の方を見上げると、不満げな顔をしたフレイがこちらへと降り立ってきた。
「あー……ごめん。つい身体が勝手に動いちゃって……」
「もう……人助けは良いですけど、サツキが周りの人に嫌なことを言われるのは……あまり見たくありません」
フレイは、少し悲しげな顔をして呟いた。
嫌なこと……と言うのは無論『死神』と言う呼び名のことだろう。……確かに、気付かれたらあの人達は怯えて逃げてしまうだろう。
嫌われるのが嫌、と言う限りでは無いが……バレる様なところまで深入りはしない方がいいだろう。
……でも。
「フレイ……分かった。私の正体がバレない様に努力はするよ。……でも、その前に一つ、やっておきたい事があるんだ」