第二百九十一話 この地は
「え……? サツキ、どうしたんですか?」
私はフレイにそう言われ、初めて自分が立ち上がって歩み始めていた事に気がついた。
『時空転移』でさっさと戻るべきなんだろうけども……何故か、さっきのあの子が、何か気になる。
「いや……少し、さっきの子が気になっちゃって……」
さっきあの子が通っていったのって……あっちだったよな?
そう考えながら、私は吸い込まれるように曲がり角へと走っていった。
「えっ⁉︎ サ、サツキどこ行くんですかー!」
フレイの焦る声を背後に聞きながら、私はたまらずに姿を消した誰かを追いかけようと街中を走る。
いくつも路地を通り過ぎ、建物と建物の間に生まれた幾つもの路地裏への入り口を尻目に、もしかしてあっちかもしれない、なんて不安に思っていた。
最短距離を歩こうと、柵を潜り抜け、樽を踏み込み、壁を飛び越える。
こうも障害物が多いと『神速』を下手には使えない。若干『怪力』で足を強化して走るぐらいだ。
……というか、別にこんな風に探さなくても『万物理解』で一発で探せるんじゃ?
『さっきのアレの現在位置』
『西南西三十五メートル先、西へと直進しています』
「了解……したっ!」
そう掛け声を上げ、私は一際高く飛んで藁葺き屋根の上へと足をつける。
道で探すんなら同じ目線の方が良いけども……一度分かったんなら屋根伝いの方が速い!
屋根から屋根へと飛び付き、直進で突き進んでいく。
大した時間も経たずに、私はある屋根の上で足を止めた。
目下の路地では、先ほどの子が同じ程の身長の子と何かを話していた。
目深に布をかぶっていてボサボサの黒い髪しか見えない。しかし、私がその姿を見て思った事は……
「……なんか、普通だな」
普通に、楽しそうに話をしている。
服装に一瞬不自然さを感じてはいたけど他の子どもも似たような見た目をしている。第一、ここの道はなんの整備もされていない。
ただ単純に、そういう地域なのだろう。
「サツキっ! いきなり走り出してどうしたんですか!」
「あ……いやごめんごめん、特になんもなかったよ」
気づくと、フレイが上で翼を羽ばたかせていた。
仕方のない人だ、とでも思っているのかその表情には若干呆れたような雰囲気がある。
「全く……ほら、早く皆のところへ戻りましょう!」
私は特に異論もなく、フレイの言葉に頷いて赤い魔法陣を広げる。
しかし、移動を完了させる直前、私の頭にふっと疑問が浮かんだ。
……そういえば、結局ここはどこなんだ?
『万物理解、ここはどこ?』
『________』
「え……」
その言葉を聞き、私の思考が凍結する。それと共に、魔法陣がフッと消え去った。
……嘘だろ、ここが?
「? サツキ、また何か気になるものが?」
フレイが私に質問をするが、どうにも口が開いて動かない。
「大変だー! ヨシタツ様が討たれたらしいぞー!」
「それだけじゃない! 軍が全員やられたとも来た!」
下の道から、そんな大声が聞こえて来る。
予想も、していなかった、ここは____
「ここは……エブルビュート……⁉︎」