第二百八十九話 奪還
ホークアイの心がどうなっているのか……私が見てきた姿だけなら、普通こう考えるだろう。
とうの昔に狂って、最早もう元には戻れないところまで至ってしまった狂人、あるいは、人間としてどこか欠如している存在、と。
でも、あの時……私へ最後の一撃を食らわせようとした時、ホークアイの目に映っていたのは、淀んだ狂気なんかじゃなかった。その目は、純粋で真っ直ぐな執着を宿していたんだ。
まるで、赤ん坊が母親を求めるように、飢えた狼が獲物を見つけたときのように、純粋に、彼は渇望していた。
「……ホークアイ、お前は……自分をわかってくれる人を求めていたんじゃ無いか?」
「……」
ホークアイは、私の質問に答えず沈黙を貫き通す。
彼から理由を聞いた時、同類が欲しかった……と言っていたが、あくまでそれは結果への途中目標でしか無い。
同類を得た上で何をするのか? という事になる。……それを推理して、私が出した答えは。
「友達が欲しかったただの人間。それがお前の正体なんじゃ無いか? ただちょっと強いスキルを持っているっていうだけで、ここまでヤケ起こしちゃったってだけの……」
そうでなければ……こんな単純な望みで、あんな風に向かってくる事は出来ない。
「……初めは単純な、相手との意見の齟齬でした」
ホークアイがポツポツと言葉を溢し始める。
「自然に生きるモンスターを無闇に殺してはいけないと言われてそれを否定すると、今度は父親に自分の力を自覚しろと叱られました。それを否定すると……次の日から、誰も私に話しかけなくなったのです」
まるで他人事のように、ホークアイは言う。
しかし……それは紛れもなく彼が話している、彼の過去だ。差し詰め村八分……そんな物が異世界に有るのかとも思うが、極少数のコミュニティの中でならあり得ない話でも無い。
「しかし……数日もしない間に議長が現れました。何も言わずに私を故郷から連れ出し、私は言われるがままにこの評議会の副議長となりました。望まれた事を望まれたように、この評議会の頭脳となって」
ホークアイはこれ以上は語ることなどないとばかりに、再び俯いて口を閉じた。
いまいち、私の推理が合っていたかどうかは分からなかったけど、こうして彼が黙っているって言う事は……つまりそう言う事なんだろう。
「もう……良いのかい?」
「何度やっても駄目だったんです。最後の一撃……あれで、私の執着は潰えてしまいました」
「……そう」
一度頷き、私は手刀を鋼へと変化させる。
もうすでに勝負はついていた。だから……これは返済に過ぎないんだ。
「ホークアイ……確かに、私とお前は似ていたかもね。一つ差があるなら……良い仲間を見つけられたか、だよ」
次の瞬間、シルクハットが空中へと放り出された。
足元には血潮が溜まり、この場にいるのは、私とフレイだけ。
「……お疲れ様」