第二百八十七話 宝物
「『氷河ッ! 凍結』ィィッ!」
燃え盛る炎の弾と化した私の拳を当てると同時、ホークアイが最大級の氷を自分の前方へと形作っていく。
空気を凍らせ、この寒気を帯びる空間そのものを収縮したかの様な、氷壁と炎の拳が激突し、次の瞬間、聴覚を奪う様な爆発音が評議会全体へと響き渡った。
氷は気体へと昇華し、白い煙で辺りを包み込む。
先程まで感じていた寒気は掻き消え、『氷河凍結』は解除された様に思えた。
「げほっ、げほっ……サツキ……やったんですか?」
前方を睨み据える私に、背後から、咳き込みながらで弱ってはいたが、フレイが声をかけてきた。
きっと身体のあちこちが痛い筈だ。すぐに治してあげたいけど……。今は、その時間を作ってあげられない。
私はフレイの方を振り返らずに、ゆっくりと口を開いた。
「いや……まだだ」
それと同時、白い煙を割り、人影と氷の流星が私の胸元へと一直線に飛んでくる。
しかし、灼熱の腕を前へ伸ばすと一瞬にして氷の流星は蒸発していった。
視界を防ぐ煙を振り払い、予想しきっていたその姿を、私は目に移した。
「……やっぱり、生きていたね、ホークアイ」
ホークアイは、あの爆発を受けても生きていた。
少し詳しく言うならば、私が僅かに砕き残した氷の壁によって爆風を防いだと言うのが正しい。
だが……あの大技が解けた手前、彼のマナの残量は残り少ない。
あと一押しだ。
荒い息を吐き背は疲労からか曲がっていたが、その目には未だに強い執念が宿っていた。
ホークアイはこちらを上目遣いで睨みつけながら、言葉を発する。
「何故……何故、そこまでして、貴方はあんな小娘一人に自分の全てを賭けるのですか⁉︎
あんな者、無駄にしかならない! 戦力にもならなければ私の様な敵に捕まり、攻撃され、何度も何度も貴方が辛い思いをした最たる理由! 排除したほうがいいに決まっているのに!」
「……」
私は、フレイの反応を待って沈黙を通した。
しかし、フレイも何も言わない。ただ、ホークアイの表情からして彼女は怒りを見せていないのだろう。
つまり、それはフレイがホークアイのあの言葉に反論できなくなっているという事だ。
そういうところ……私とフレイは似ている。周りのことはいくらでも褒めてあげられるのに、自分のこととなると途端に何も言えなくなってしまう所が。
だから、こういう時は私が助けてあげるべきなんだ。
「……理由? 簡単だよ、でもお前には到底想像もつかないだろうね」
私はホークアイの問いに、フレイに代わってゆっくりと答えた。
「仲間だったら、そうするべきだろう?」