第二百八十五話 フレイの覚悟
「っ……」
とにかく、一度フレイをあの氷から助け出さないと……!
「おっと! 貴方がそれ以上動けば彼女の命はありませんよ!」
「っ!」
振り返ろうとした瞬間、ホークアイが威嚇するように私へ言葉を投げかけ、私の足が止まる。
駄目だ……今これ以上動いたら、本当にフレイが殺されかねない……。
「サツキ! 私の事は気にしないでホークアイを……むぐっ⁉︎」
「その煩い口、少しの間黙っていてもらいますよ。私がサツキさんと話しているんですから」
「フレイ!」
ホークアイの一言と共にフレイの口まで氷が登り、彼女の言葉を封じる。
やっぱり……今は動けない……。私が動いたら、彼女はあっという間に死んでしまうかもしれないんだ。
私はフレイの状態にどうすることも出来ず、息を詰まらせるほどに全身を硬直させていた。
「動けませんよねぇサツキさん⁉︎ 貴方の選択次第で彼女の命が無くなってしまうのですから!
……ところで、フレイさんの使っているあのよくわからない力ですが、私の攻撃を止めるのに手一杯の様ですね。先程空中に浮かんでいた何かを凍らせたせいでしょうか?」
! ……ホークアイ、フレイのマナを凍結させて使えなくしていたのか……!
「……何が、望みだ」
抵抗する術も思いつかず、私はポツリとホークアイに向かって問いた。
どうすれば……どうすれば、フレイを助けられるんだ……? 彼女が傷つかない様にするには……。
「フフ……簡単ですよ、今まで、私が何度も貴方にお願いしてきたことです」
っ……やっぱり、か……
フレイ達がここまで頑張って、やっと私を引き戻してくれた、というのは分かる。……でも、私が犠牲になって、フレイが助かるっていうのなら……そっちの方が良いんじゃないか?
フレイに、辛い思いをして欲しくないんだ。だから……やっぱり私は……。
「サツキッ! 駄目です! サツキ!」
その時、先程の悲鳴よりもずっと悲痛な、すがりつく様な叫び声が耳に飛んできた。
目に映ったのは、氷の破片が残る口を力一杯に開けるフレイの姿だった。
その横には、今までフレイが出していた巨大な槍ではなく、小さなダガーが一本だけ浮いていた。
「フ、フレイ……どうして……」
「何を考えているんですか……? フ、まあ良いでしょう。その力を使ったという事は!」
その言葉と共に、ダガーが凍りつき、フレイに刺さっていた氷の棘が更に深く突き刺さる。
全身が抉り取られるかごとく、腹や、肩の肉を深々と貫いた。
「う、あぁああぁぁぁあああっ!」
空気が震える様な叫びが私の耳に突き刺さる。
それだけじゃない。フレイは元々自分を守っていた筈だ。なのに……どうして、あのダガー一本に自分のマナを全て使って、自分の口の氷を……。