第二百八十二話 秘策
私はそうフレイに告げると、素早く耳打ちをした。
フレイもそれに頷き、気付けばホークアイは完全に回復して再び立ち上がっていた。
……これで、立場は再び元通り。このループで体力を消耗する気だったのかも知れないけど……こっちには秘策がある。
「ホークアイ、来なよ」
「っ……」
私の言葉に、ホークアイが一瞬たじろいでこちらを睨む。
彼から行動を起こさせないと意味がない。今攻撃に消極的になっているホークアイを動かさせるには。
「君の『研鑽』はそんな物なのかい? ただ回復能力があってちょっと強い氷結魔法が打てるだけ、そんなの私以下じゃないか」
「挑発のつもりですか?」
……これじゃ足りないか。何か彼の逆鱗に触れるような物が必要……あ。
アレだったら……どうだ?
「……ま、私は君がそれだけの力って言うんならそれはそれで良いのさ。ただ、もしそうなら私達はさっさと帰らせてもらうよ」
「な……帰る⁉︎」
ホークアイはギョッとして、身体を硬らせる。
やっぱり食いついたか……あいつ、やけに私をここに止めようとしているんだ。
さっきはフレイの疲労が心配だったけども、もう一つ、気にかかる点があった。
まるで何かを待っているみたいに、私とフレイで簡単に砕ける魔法ばっかり使っている。
つまりはそこに勝ち筋があるから私達を足止めしているわけだ。いつか来る、その何かを図って。
……ま、あくまで憶測だったけど……現にカマをかけたら反応したわけだし。
扉の方へと回れ右をし、私はホークアイの方へ首だけ振り返る。
「ほらほらどうすんの? 早くしないと私達さっさと帰っちゃうよ?」
腕をダランとさせて、より舐め切った態度を見せる。
焦ったそうにするホークアイは我慢ならないとばかりに指先をこちらに向けると。
「『アイス』!」
扉と私達に向かって、氷の群れが襲い掛かる。
しかし。
「『時空転移』」
「『無限連撃』」
片方はその場から姿を消し、もう片方は無数の光剣に切り裂かれる。
「な……!」
その光景に、ホークアイは目を見開いて驚愕する。
ホークアイの魔法は不意打ちで打たれたら基本、回避は不可能だ。あのスピードと制圧力で空間はあいつのテリトリーになる。だが……。
「もう見切ったよ、正面でなら私もフレイも負けない。……さあ、どうする?」
「……なるほど、では……私も、本気を出すしか無いようですね」
! 来た……ここからは、全力で……!
「……来なよ」
私の言葉に、ホークアイが両手をゆっくりと前へ延ばす。
あまりにも静かな空気と共に、彼が唱えた言葉は。
「……『氷河凍結』」