第二十七話 白き武器
「まずいわ……!彼女のマナが枯渇し始めている!」
『収納』から無理矢理出てきたウンディーネは、黒い鎧を見に纏ったフレイを見ながら叫ぶ。
ウンディーネに釣られ、私も重たい身体をもたげ空中で戦うフレイを見ると、フレイの鎧が少しづつ削れていっているのが見えた。
そんな……ありえない!だって……
「フレイはエルフだよ?それにスキルも使えないんなら、体内に内蔵しているマナだって膨大な量だ!それに、王都の時は……!」
長時間付けていたにも関わらずマナ切れは起こさなかった。私がそう言おうとすると、サラマンダーが私に悩ましげな声を上げる。
「だから変なのよ……サツキ、あんたの言う通り彼女のマナは豊潤よ。でも、今はマナが出てくる管からあまり出ていないの。閉められた蛇口みたいにね」
じゃあ、フレイは……フレイは鎧を生成できなくなる!?
「さっき言っていたマナティクスは!?何かしてくれるんじゃないの!?」
私が必死になってサラマンダーに問いかけると、サラマンダーはため息をつき呟く。
「今それをしている最中かもしれないわ。精神に干渉しているとしたら、何かの理由で今の事態になっているのかもしれない」
その時、フレイの首に深く突き刺さった棘が出していた煙が不意に止まる。
蛇口が、完全に閉まった。
「フレイ!」
私が咄嗟に叫ぶと、タケルは何かを勘付き、身体をのけぞらせて笑う。
その隙を見逃さずフレイは手刀を振り下ろすが、タケルは容易くそれを掴む。
「まあまあ楽しめたぜ……だが、お前には飽きた」
掴んだ手から、みるみると鎧が形を失い、輝きながら解けて行く。
くっ!こうなったら、身を挺してでもフレイを守らなきゃ!
私は『怪力』を足にかけ、二人に向かって飛び上がる。
「じゃあな」
しかし、間に合わない。タケルは拳を構えて、フレイの腹部を目掛けて飛ばす。
くそっくそっ!足りない……距離が!サラマンダーもここからじゃ届かない!
「フレイっ!」
私は僅かな奇跡が起きる事を祈り、必死に手を伸ばす。
それを嘲笑うように、凶拳は今、フレイの目の前に。
「やめろおおおぉぉっっ!」
天にも轟くほどの、悲痛な声で私は咆哮した。もう、間に合わない……!
その時、突如としてフレイが白く光りだす。
それと同時に、形を失おうとしていた鎧が再び形を取り戻し、盾のようにタケルの拳を防ぎ、その一撃を吸収して見せた。
「なっ……!」
タケルは驚愕の表情を表し、目を見開く。
「やっと戻って来れました。私はもう、自分を見失いません。
この機械に……いえ、『機械仕掛けの神』に誓って!」
そこには、タケルを見据え、はっきりとした目で睨むフレイがいた。
その姿は白いオーラで包まれ、神々しささえ感じた。
「ちっ……飽きたっつってんだろうが!」
そう言い、タケルは再び拳を盾に打ち付ける。
「か、硬い……!」
しかし、盾はびくともせず、タケルの拳を受け止める。
フレイが手元を動かすと、盾はそれに反応するようにタケルを地面まで押しつぶす。
タケルは両手でそれを抑えるが、今度はフレイへと戻って行く。
それでは終わらず、盾は再び分裂し、新たに形作る。
それは白い槍だった。フレイのオーラと同じ純白の槍はフレイが指差すタケルに向かって飛んでいく。
タケルは手を構え、防御、そして『変化』を発動しようとする。
しかし、タケルの目の前で槍は突如止まり分裂する。
分裂した槍はタケルの後ろへ回り込み、再び構成する。
「ぐっ……『変かぐぁっ!」
タケルが『変化』を発動させるよりも前に、槍はタケルを深々と貫く。
「ぐぁ……おぉおぉ……」
タケルは声にならない叫びを上げながら、更に抉ろうとする槍の痛みに苦しむ。
そしてタケルは槍を引き抜かれ、地に倒れ伏せた。
倒れた地面が、みるみる赤くなって行く中、フレイが私たちの方へ降り立ち、自ら首に刺さった棘を引き抜く。
槍は形を失い、溶けるように空中へと消えて行く。
「フレイ……痛くないの?」
私は自分から棘を抜いたフレイが心配になり問いかける。
「えぇ、大丈夫ですよ、サツキ。怪我は大丈夫ですか?」
フレイはにこりと笑い、私の手に触れる。
……フレイの方がよほど苦しんだだろう。それなのに、私の心配を……。
「問題ないさ。にしても……これは……」
私は倒れたタケルへ目線を向ける。一体どんな力を手に入れたんだ……?
「神様のおかげですよ。面倒見のいい、可愛らしい神様でした」
フレイがそういうと、サラマンダーは鞘から飛び出して、食い気味に聞く。
「ちょっと!それ、マナティクス様の事ね!?元気にしていた?」
サラマンダーを押し退け、ウンディーネもフレイの前に立ち興奮して聞く。
「是非!是非お話を聞かせて頂戴!」
「ま、待ってください。今話しますから……」
フレイは困り気味に二人から後ずさる。
これで、一件落着かな……さて、私も最後の仕事を……
私は石を取り出して、タケルの方へ向く。すると。
「……っ!?」
そこにタケルは居ずに、抉られた地面だけが残っていた。
土を『変化』させて回復したのか……!?
「フレイ!まだタケルは生きている!」
私がフレイへ向き直り、伝えると、フレイは再び緊張した顔になっていた。
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