第二百七十三話 生きる
ホークアイが吹き飛んだ先を見ながら、彼女は怒りの混じった叫びを上げる。
私の横に立つその姿は、紛れもなくフレイだった。
フレイ……生きていたいたんだ……!
私は突然の出来事に立つことすらままならず、フレイの顔をただ見上げるだけとなっていた。
ただ、嬉しいと言う気持ちだけが頭の中に駆け巡っている。
「フ……フレイ……!」
彼女が生きていた、と言う事実だけで自然と笑顔になってしまう。
しかし、次の瞬間彼女は私の声を聞くと、立ったままこちらをキッと睨みつけた。
「え?」
フレイが何故そんな表情をするのかもわからず、私は間の抜けた声を上げる。
彼女は私の目の前に睨み付けたままの顔を寄せると。
「サツキ! 良い加減にしてください!」
先ほど上げていた叫びと同じ位の荒々しい声色で私の肩を掴む。
その覇気に一瞬肩が竦み何も言えずに固まっていると、彼女は続けて私の肩を放し正座すると。
「そこに直ってください」
「え……あ……はい」
なんとも断れない、まるで母親に怒られているような気持ちになって、言われるがままフレイに面と向かったまま、自分の動いていなかったはずの足をきっちりと折りたたんで座り直した。
私が正座したのを見ると、フレイは眉は穏やかで無いまま、目を瞑って一息つく。
「……サツキ。また評議会側になろうとしていましたね? ホークアイに唆された、というのは分かります。
弱点を突かれてしまった、と言うのもわかります。
……私の助けが遅れてしまったのは、すみませんでした。もっと早く神滅槍を撃てば貴方に辛い思いをさせずに済んだとも思います。ですが……」
「はい……」
「ですが、いくら私が殺されたかも知れないからと言ってすぐに心が折れてしまうのはあんまりでしょう!
それ程までに私の事を大切に思ってくれているのは……まあ、嬉しいです! でも、でもですよ!」
「……」
返す言葉も無い……場の空気に飲まれてあっさり仲間になる所だった。
「私はあなたの枷にはなりたく無いんです! あなたの力になりたいんです! ですから……サツキ、これだけは覚えておいてください」
頬を若干赤く染めて言うのを躊躇うような様子が見えたが、フレイはすぐに口を開き。
「……私達はいつだって一緒なんです! あなたと一緒に歩んできた道は消えませんし、私達が一瞬離れたからと言って、一人ぼっちじゃありません!
例え離れ離れになっても今までのようにすぐに助けに行きます!
もし……もし、私が死んでしまった時は、あなたが死ぬまで霊になって横にいます! ですから!」
「フレイ……」
「ですから……生きてください、どんな事があっても強く生きてください!
困った時は私に相談してくれれば良いです。辛い時は、みんなと一緒にサツキの横にいます。生きてくれているだけで……それだけでも、あなたは良くやっているんですから」
……言い切ったのか、フレイはそれっきり言葉を止めた。私の返事を待つように、ずっとこちらを見据えて。
頭の中で色々、想いが渦巻いている。何から言えば良いのか、どんな風に言えば良いのか。
迷ったけど、今言える事はこれだ。
「……ごめん、それと……ありがとう。私、一人でも頑張れるように生きてみるよ」
私は彼女の目を見ながらはっきりとそう言った。
フレイは、私の言葉を聞いて満足げに笑みを浮かべると、ゆっくりと立ち上がり。
「ありがとうございます、サツキ。……行きましょう」
私の方へと、手を差し伸べる。
「……うん!」
私もその手を握りしめ、フレイの身体に精一杯頼って、立ち上がった。