第二百七十二話 一人じゃ無い
「……あーあ。せっかく助かった命だったのに、彼女……死んでしまいましたねぇ。……本当にかわいそうです。愛情を良いことに貴方に身を費やされて、挙げ句の果てには身代わりにされて死ぬとは」
ホークアイは大袈裟に表情を変えながら、独り言を呟くように言うが、それは明確に私に語りかけている物だった。
「ち……違う。私は……身代わりになんてするつもりは……」
ホークアイの言葉が演技だと分かっているのに、震えが止まらない。
彼の目を見て言えない。まるで、後ろめたく嘘をついているような気持ちになる。
「だったら、何故『煌光』で私を焼き切らなかったんですか? 最大火力? 限界値? いえいえ、貴方はあそこで全てのマナを出し切れば、ギリギリ私を倒せましたよ」
分かりきったように、ホークアイは私を否定し、決めつける。
そんなこと、何処にも確証はない。……でも、そう考える自分が信じ切れず、私はその言葉を言えなかった。
最早、自分の考えていることが正しい事かの判断すらつかない。答えを見つけられず、私は……
「……わ、私の……せい……?」
呟くように、そう聞いた。
満足げな深呼吸が上から聞こえてくると、その間も無く、私の顎に手がかけられ、無理やり目前のホークアイの顔へ向けさせられる。
「ええ、貴方のせいですよ。……やはり、貴方が居なければ彼女は平穏に暮らしていたんでしょう。この危険な旅は全て、貴方が発端で、元凶なのですから」
ホークアイは、わざと私の心を抉り取るような言葉を選んでいた。
しかし、それが分かっていても私はどうする事もできない。……仲間を殺してしまった私に、反論する権利なんて無いんだ。
「……」
「さあ、サツキさん。最早帰れもしない、帰ったとしても貴方の一番大事にしていた仲間もいない。だったら……もう、分かりますね?」
ホークアイは私の方へと手を差し伸べる。その手を取れと言わんばかりに、私の目の前でそれを動かす事はなかった。
もう……この手しか……。
「今度こそ……貴方は一人です。誰も、貴方を助ける事は___」
「そんなわけッ! 無いでしょう、があああああぁぁっ!」
私がホークアイの手を取ろうとした瞬間、立ち込める白い霧の中から咆哮が響き渡った。
その声に気を取られ、私は自分の手の動きを止める。
「この声……」
次の瞬間、立ち込める霧を引き裂き、何かが一閃を残してまっすぐと突き抜ける。
それは一瞬にしてホークアイの心臓を突き刺し、わたしから彼を引き剥がした。
「ぐぁっ⁉︎」
突発的な攻撃に呻き声を上げながら、ホークアイは壁に叩きつけられる。
彼を貫いていたのは、白く巨大な槍。しかし、その先端の鋭さは、確実に一人を狙ってのものだった。
それを使えるのは、私の一番の仲間だけ。
振り返ると、霧を引き裂いた先にいたのは一人の人間、白い肌と、白い髪を揺らすその姿は。
「フ……レイ……」
「サツキは、一人なんかじゃありません! 私が……私達が! いつだって、どんな時だってついています!」