第二百七十一話 凍りついた世界
「___」
目の前にあったはずの裂け目は何処にもなく、冷気と熱で空間を白い煙が包む。
そこに、人の姿は無かった。
「フレ、イ……」
「お久しぶり……とは言っても、先程お会いしましたか。お迎えにあがりましたよ、サツキさん」
目に映る光景に思考も身体も固まり、ただただ呆然とその風景を眺めていた私の耳に不意に後ろから声が飛んできた。
紳士的な明るい声色とは裏腹に、隠し切れていない底知れぬ邪悪さ。
何度も聞いた、二度と聞きたくなかった声。
それに一瞬恐怖を感じたが、確信と、それに対する怒りが勝り私は振り向いた。
黒いシルクハットを被り暗い緑色の背広の外套を身につけ、顔には穏やかな余裕のある笑みを浮かべ、こちらに向ける指先は青く、冷たい光をたたえている。
「ホーク、アイ……⁉︎」
その姿を見て、私は震えるような驚愕の声を上げていた。
そこにいる事は分かっていた。私に声をかけた時から、すでに確信していたのに……身体の震えが、止まらない。
今までよりもずっと、暗く、冷徹な雰囲気が彼の周りを覆っていた。
彼から発せられる底知れない深淵のような覇気が、私の頬を撫で付けるような錯覚を起こしてしまう。
「な……なんで……」
「もう少しであなたをとり逃すところでした。しかし……その怯えようなら問題はなさそうですね」
私よりも少し下を見るホークアイの視線を追うと、そこには震える私の右腕があった。
それだけじゃない。気付けば身体中が震えている。一体……どうして……
「やはり……あなたに一番堪えるのは仲間の喪失、ですね。本当に、ふふふ……この手に限ります……」
その瞬間、私の身体に、震えとはまた違う怖気が私を襲った。
仲間の……喪失?
「ま……まさか……」
「ええ、死にました」
死ん……だ……?
ホークアイがほくそ笑む顔が、グラグラと歪んでいく。……いや、私の視界が歪んでいるのか?
膝から力が抜け、まともに立てずに膝から崩れ落ちる。
「そん、な……」
「いえいえ、本当ですよ。貴方のせいで、死んだのです」
ホークアイは私の漏れ出た言葉を嘲笑うように、こちらへと歩みながら言葉をつらつらと述べていく。
私の……せいなのか……?