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第二十六話 信念、過去からの改

「フレイ?木の実取れたかしら?」


 川で取れた実を洗っていた母は、私の方へ振り返る。


「うん!ほら、こんなに沢山!」


 私は木からもいで来た、ざるいっぱいの木の実を母に向かって出す。


 この森は川が流れ、多種に及ぶ木々がある。

 木から取れる実は大きくたっぷりと実るので、一年中食べ物に困ることは無いし、木の内側を削っていけば家として住むこともできる。


 私達がここまで平和に暮らせているのもこの恵まれた環境があってのことだろう。

 朝早く出かけ、木の実を取ったはいいものの、まだ昼には程遠く、かなり早く終わってしまった。


「今日はすごく手際がいいわねえ。まだお昼まで時間はあるし……そうね、フレイ、ちょっとおいで」


 そう言うと洗った木の実を抱え、母はゆっくりと立ち上がる。

 そして、森の奥へと進んでいった。


 どこへ行くんだろう……?

 私は歩いて行く母の後をカモの子供のように付いていく。


 奥に進むに連れて、風景はどんどん暗くなって行く。


「さ、ついたわよ。ここが私のお気に入りの場所」


 母の声は聞こえるが、全く姿は見えなくなっていた。

 しかし、突如目の前が明るくなる。目の前には茂みがあったらしく、その先には。


「わあ……!綺麗……!」


 流れる滝、クリアブルーの池、咲き乱れる花。木々には小鳥達が止まり、さえずり合っている姿も見える。

 先ほどまでの森とは隔絶された美しさを持つ場所だった。

 

「いいところでしょ?あなた達にいつか見せてあげたかったんだけど……毎日忙しくてね、どう?」


 母は私に顔を向け、優しく微笑む。


「すごく、良い所。この森にこんな良い場所があったなんて……」


 知らなかった。今の森にはこんな所は全く無かった……。


「ここはね、お父さんと私が出会ったところなの。お父さんったら、ここの鳥達についばまれていて……」


 母は今度は手を口に当て、クスクスと笑っていた。


「お父さんって……確か人間だったんじゃ……」


「あら?あなたに言っていたかしら?忘れてたわ……私も歳ねえ」


 っ!そう言えば、母が死んだ後に知ったんだった……

 否定するにも肯定するにも母と私にとって、気まずいことになる。

 私は黙っているしか無かった。


 その時、突如森の入り口から爆発音が聞こえる。


「……?何かしら。あそこにはみんながいるはず……」


 ……!これは……

 間違いない、これから母は死ぬ。人間達の手によって。ただ、私の断片的な記憶とは異なる部分がある。

 母はこの場所にはいなかった。少しだけだが、実際に起きた過去の出来事とは異なっている。


「お母さん……」


「行きましょう、みんなが心配だわ」


 母が言ってしまえば、死んでしまう。そんなことはあってはならない。


「駄目……お母さん……!」


 駄目……駄目……!


 私は母の服の裾を掴み、必死に引き留める。


 しかし、母は私の肩に手を置き、ゆっくりと、そしてはっきりと語りかける。


「フレイ。人はね、どうしても守りたいもの、絶対に失いたくない物があるの。私にとって、あなた達がそれなのよ。だから、行かせてちょうだい」


 お母さん……。

 私の手は力が抜け、裾を掴んだ手はゆっくりと離れて行く。


「……良い子ね。それじゃ、行ってくるから……」


 そう言うと、母は身体を構え、立ち去ろうとする。


「お母さん!」

 

 しかし、私はまた声を上げていた。

 それは、引き留めるためでなく。


「……私も行くから」


 私は母を見据え、覚悟を決めた。




「この近くにあのエルフが居るはずだ!探せ、探せえっ!」


 森を燃やしたのは王都の騎士だった。木々を焼き払い、隠れるための森を無くそうとしている。


「隊長!エルフのガキが何匹も木の中に!こいつら、きっとあのエルフの子どもです!」


「う、うぅ……」


 弟達は騎士に手を伸ばされる。その時だった。


「やめて!」

 

 空から声が聞こえる。そして、風が吹き荒れ、騎士と弟達の間にその風は降り立つ。


 そこには母と私がいた。母が出した風によって、木を燃やす火は吹き飛ばされる。


「やっと来たか……忌々しきエルフ、アセントめ!」


 騎士の隊長と思われるその男は、母に怒りの眼差しを刺す。


「何度も言わせないで!私は何もやっていない、ただあの人と一緒に居たかっただけなの!

 あなた達帰って!私のスキルで無理矢理にでも……!」


 そう言った母は、騎士の男達に向かって風を飛ばす。

 しかし、風は彼らに届く前に、碧色に輝き消えてしまう。

 

「残念だが、何度も同じ事で返されるような王都では無いのだよ。タケル様、どうぞ」


 そう言い、騎士が横へ引くと、そこには青く長い髪を後ろに一本にして結んだ男がいた。

 この姿は……まさか!


「全く、コウキから面白い玩具があるって聞いたからここまで来たのによ、こんな雑魚を相手にするとは……」


 そう言うとタケルは母の後ろに回り、その腹を貫いた。


「かはっ……!」


 母は目を見開き、口から血を吐き出す。


「お母さん!」


 私は倒れる母に駆け寄り、体を支える。


「フ……レイ……」


 母は私の方を見る。


「動かないで!今治療を……」


「逃げるのか?」


 私が母に声をかけようとすると、私の上からタケルが呟く。


「……え?」


「お姉ちゃんは、逃げるの?お母さんを捨てて?」


 弟達が私を見つめ、同じように問いかける。


「「「逃げるの?自分だけが助かるために?」」」


 ……全部思い出した。私は弟達を連れて、森の奥へ逃げた。

 でも……自分だけが助かるためでは無い。

 今なら分かる。私は……


「私は自分が守りたいもの、失いたく無いものを助けるために選択しました。

 だから、私は後悔をもうしません。守りたい物を守る。その信念を貫きます」


 私がその言葉を言うと、突如風景全体にヒビが入り、砕け散った。


 後には、マナティクスと黒い風景があるだけだった。


「……よくやったな。貴様は自分の信念を作った、行ってこい。もう意識が飲まれることはないだろう」


 マナティクスは凛とした声で私に語りかける。


「マナティクス……ありがとうございます」


「ええい、鬱陶しい。さっさと行ってこい」


 私が感謝を述べると、マナティクスは少し声を荒げる。


 ふふ、恥ずかしがり屋な神様、ですね。

最後の部分がわかりにくかったと思いますので、少し補足をさせていただきます!

あの過去の世界はフレイの精神世界の一部でした。フレイは今まで母を見捨てた、という記憶はなくとも自分を責める感情だけがのこりました。そして、大切な決断、選択をすることができなくなってしまっていたのです。


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