第二百六十七話 嫌悪
神……とか、マナの祖……というのはまだ納得が行く。
マナのあるこんな異世界で、精神世界だけに現れるという事も今更不可解には思わない。
……しかし、何故私達に手を貸すのか……そこが分からないのだ。
もし私が神様ならいちいち数人の人間を気にかけたりなんてしない。いや、仮に助けたいと思っても、あんな尊大な態度を取るか……?
「サツキ?」
「え? ああフレイか。どうしたの?」
頭の中で考察を巡らせていると、フレイに不意に声をかけられた。
フレイ自身もそんな私の表情を見透かしていたのか、少し問いかけるような口調だ。
「その……ヴィリアもかなり傷を負っているはずですから、治療をお願いしても良いですか?」
ヴィリア……あの赤髪の女性の事だったよな、確か。
「分かった。じゃあすぐに治しちゃうから」
……マナティクス、少し調べる必要があるかも知れない……。
そう心の中で呟きながら、私は赤髪の女性へと向かって行く。
剣を地面に突き立てて辛うじて立ってはいるみたいだけど……それでも辛そうだな。……怪我は主に四肢に集中している。
しかし、自分と同じくらいの歳の人間ともなると少し緊張するな……。
「あー……初めまして。と言っても知っていただいてるとは思うんですけど……サツキです。ヴィリアさん、今直しますから___」
そう言いながら、私がそっと手を伸ばした瞬間。
「……触るな」
その手を、重傷を負っているはずの彼女自身が払い退けた。
何処から出ているのかと思うほどの力で、強く、怒りすら篭っているような勢いでだった。
「……」
「これ、くらい……しばらくもすれば治る……。……それよりも、やはり、貴様、覚えていないん、だな……」
私が驚愕で固まっている横から、彼女は振り返ると刀を地面に突き立てながら身体を動かすのも辛そうに歩いて行く。
……覚えていない……?
どういう事なのかとフレイの方を振り向くと、彼女はやはりとでも言うような表情で悩ましげにしていた。
「……何か、知っているの?」
「はい。でも……説明は帰ってからにさせてください、長くなりますから。
……それと、彼女も彼女の理念で動いていますから、無理に強いるわけではないですが……出来るだけそっとして置いてあげてください」
そう言うフレイの表情は、何処か彼女のことを気にかけているようで、必死さがあった。
……訳有り、と言うわけなのだろうか。