第二百六十五話 段違いに
今にもはちきれんばかりのマナを抱え、過去最大級の眩さとエネルギーを放つサラマンダーを、私は振り下ろす。
次の瞬間、サラマンダーに溜まっていたエネルギーが敵の群勢に一気に波濤の如く押し寄せた。
エネルギーは姿を変え、『煌光』の力によって光へと変貌し、サラマンダーの力によってその上から炎を纏って行く。
「でも……これじゃあの人にまで攻撃が……!」
「大丈夫よ! 攻撃の向きぐらい、こんな風にすれ、ばっ!」
サラマンダーの声と共に、噴き出ていた光と炎の波が二又に分かれる。
その強烈な一撃は、敵をその波の中に飲み込み、一瞬で空間を埋め尽くした。
光のせいで前がまともに見えない……! というか、もう十分なんじゃ無いのか……?
「サラマンダー! こ、これ、もう良いよ! 明らかにオーバーキルでしょ!」
手に持つサラマンダーへそう呼びかけるが、当の本人は焦っているような声色でこちらへ返事をし。
「分かってるわよ! でも、これ全然止まらなくて……!」
マナの量が多すぎたのか……⁉︎ いや、ちょっとブランクがあったとは言え鍛えた勘がそんな簡単に鈍るはずない……!
「くぅ……! 仕方ない! サラマンダー、ちょっと無理やりかもしれないけどマナをこっちにもどすよ!」
そう伝えながら、私はサラマンダーの柄から自分へマナを逆流させて行く。
血液の流れを逆向きにさせるみたいな事だけど……『変化』でなんとか乗り切れるか……⁉︎
血液の流れをかき分けて入って行く異物に若干の不快感を感じながらも、私は自分の体内へとそれを戻していった。
元々自分の中にあったものなのに……一度加工したマナを再吸収するのってこんなに気持ち悪いのか……⁉︎
次々と帰ってくるマナを受け入れていき、サラマンダーの光もだんだんと弱まってくる。
光が一筋と言うほどに細くなってくると、最後の出し切りかのように僅かな衝撃と共に光は完全に収まった。
「うっ!」
「きゃっ!」
しかし、意識を内側に回していたせいで、微弱な衝撃にも関わらず私はサラマンダーを手放す形で尻餅をついてしまう。
それと同時にサラマンダーもカランと金属音を立てて、地面へと落ちてしまった。
地面に倒れたサラマンダーを見ながら、私はジンジンと痺れがまだ残っている自分の手を改めて見直す。
さっきのは……明らかに今までとは威力が違っていた。
サラマンダーの火力も底上げされている。ただ……それだけじゃ無かった。
燃費が段違いに良い。今までの火力を目指すなら、四分の一のマナで構わないくらいに……。
マナティクス……一体、彼女は……。