第二百六十話 水の精霊
「ほーん……イレティナね……」
特にこれと言って驚く様なサプライズは無かったな……いや、別に期待してたわけじゃ無いけど。
と、言うか……見た目にしては割と普通な名前だ。この世界での名前って皆こんな感じなのか……?
「……? ね、どうしたの?」
「え? あっあぁ、ごめんごめん、よろしく」
こちらへキョトンとしながら問いかけて来るイレティナに、私はとっさに挨拶を返した。
うっかり上の空になっちゃってたな……初対面なんだし、しっかりコミュニケーションは取らないと……。
そう思って彼女の方を見た時、私はふとあることを思い出した。
「あ……ウンディーネ! ウンディーネはどこ⁉︎」
まるっきり忘れていたわけじゃ無いけど……そうそうここで時間を割くこともできない。
すぐにでもウンディーネを見つけ出さないと……!
『万物理解』を使うことも頭の中に浮かばず、あちこちに首を回してウンディーネらしき影がないか探す。
しかし、いくら見回してもそれらしき影がない。ウンディーネは人型だから簡単に見つかるはずなのに……!
「ウンディーネー⁉︎ どこにいるのー⁉︎」
「ここよ」
「どわぁっ⁉︎」
何も無いところからウンディーネの声が……⁉︎
……いや、よくよく考えてみたらウンディーネは精霊なんだから、身体の有無はあんま関係無いはず……ってことは……。
新たに浮かんだそれを念頭に置き、私は改めて辺りをじっくりと見回す。
すると、イレティナの足元で私の目が止まった。そこにあったのは、小さな水たまり。水たまりと言っても私の足のサイズよりも小さいんじゃ無いかと思うほどの、本当に小さい物だ。
ゆっくりとそれに歩み寄り、私は腰をかがめてじっくりとそれを見る。
でも……こんなところにポツンと水溜りが有るのもおかしい。つまり……これは……。
「……ウンディーネ?」
そっと呼びかけた瞬間、むくりとそれが身を起こす。
小さくはなっていたが、少女の様な見た目で、透き通るような青色を持つその物体は、多少の間を開けていても間違いなくすぐに理解できる物だった。
「……当たりよ。全く、気づくのが遅いのよ……」