第二百五十八話 治療
魔法陣が足元へと浮かび、赤い光が私とフレイを下から照らし出す。
次の瞬間には、私たちの転移は完了していた。
……景色は、あまり変わらないな。『万物理解』でウンディーネの居る場所の条件で座標を探したんだけども……。
……そう言えば、『時空転移』が使えるようになっている。さっきは必死で気づかなかったけど……この空間内の移動なら出来るのかな?
「ウンディーネ! イレティナ!」
辺りを見回していると、突然フレイが悲痛な声を出して走り出す。
そう遠くない距離で彼女は走るのをやめると、何かを見るようにしてひざまずいた。
そこには、傷だらけの人間がいた。
肌は若干黒く、所々にボディペイントのような模様も見える。しかし、その肌の見た目の多くは乾いた血で赤黒くなり、所々、身体のパーツも欠損しているようだ。
四肢は残っていたが、これ以上動かせないと側から見てもわかる。右手には棒のようなものを握りしめているようにも見えるが……やはり血に染まってそれが何なのかまでは分からなかった。
……これが、フレイの新しい仲間の子なんだ……。
かなりボロボロになってしまっている。でも生きている様だし……今はきっと、かなり苦しい状態に違い無い。
それに……この子はきっと、私を助けに、フレイと一緒に来てくれたんだ。
フレイはあまり無理強いはしないタイプだし、むしろ自分だけで行くなんていうこともあったかもしれない。
この子は……フレイの反対を押し切ってまで、彼女の力になりたいと思ったんだ。
……しかし、元はと言えば私がホークアイの口車に乗せられたことが悪かった。この子を助けることは私にとって義務なんだ。それとは別に、また恩返しが必要なくらい。
「イレティナ! しっかりして下さい! せっかく、せっかく貴方のおかげで助けられたのに___」
「フレイ、安心して。……しっかりと治すから。『変化』」
倒れる彼女の腹部に手を伸ばし、私はその傷ついた体を練り直していく。
『万物理解』を併用して、抉れた内臓は空気で作り直し、砕けた骨は再び集め、爛れた皮膚は溶け合わさる様にして縫合した。
そこら中についていた血はマナに変え、少しいただいたが十分な血液を補充する。
流体の様にそれぞれが組み合わさり、そこには傷一つない、女の子がいた。
女の子はしばらくもしないうちにパチリと目を開け、頭をもたげると。
「……あれ? 私、確かフレイちゃんに矢を……」
「イレティナっ!」
次の瞬間には、フレイは彼女に抱きついていた。